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あるコロンビア売春婦と一年間恋人関係にあった私は、不法滞在で強制送還された彼女を追いかけてコロンビア本国に渡って彼女の家を訪ねた。そこで見たものは…
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「エバ、日本にはいつ来たの」

「ラストイヤー、七月」

 彼女は多少英語が喋れた。といっても、ペラペラではない。単語をある程度知っている程度だ。英語がまったく喋れないコロンビアーナが多い中で、多少でも喋れるということは、高校程度は出ているのだろうと思った。

 だが、日本に来て十ヶ月にはなる。もう少し日本語が喋れてもよかった。もちろん個人差はあるが、ホステス業が主なフィリピーナだったら、初来日でも三ヶ月くらいでペラペラになってしまう。それに対して、「元気?」「チップ」「早く」くらいの単語を知っていればこなせてしまう劇場の仕事では、日本人の恋人でもいないと上達が早くないのだ。

「どこの出身? メデジン? カリ?」

「ノー。ボゴタ」

 首都であるボゴタ出身のコロンビアーナに出会ったのは、このときが初めてだった。来日しているコロンビアーナの出身地は、圧倒的にメデジン、カリが多いのだ。のちに別のボゴタ出身のコロンビアーナに、その理由を聞いたことがある。彼女は、こう説明した。

「カリやメデジンの女は、子供のときから遊んでばかりいるの。反対にボゴタでは、両親のしつけが厳しくて、勉強ばかりしているの。それでカリやメデジンの女はまともな仕事ができなくて、プータ(売春婦)になる女が多いの」

 ボゴタ出身者の地域ナショナリズムも入っているだろうが、コロンビアサルサの発信地であるカリ、メデジンカルテルの本拠地だったメデジンに「遊び人」が多いことは納得できた。

「ファミリーもボゴタ?」

「お姉さんのファミリーがある。パパ、ママ、サンタマリア(死んだ)」

 コロンビアーナたちは、「死ぬ」ということを「サンタマリア」という隠語で表現する。昇天してマリア様になるということなのだろうが、マフィアに「サンタマリアしてやる」と言われることだけはご免だ。

「ママはどうしてサンタマリア?」

「わたしが五歳のとき、病気で。三十八歳」

「若いね。何の病気」

「知らない」

「エルマーノ(兄弟)、エルマーナ(姉妹)はある?」

「お姉さん、四人いる。わたし、ラスト」

「エルマーノは?」

「いない。女だけ。だから、お姉さん、ママの代わり」

「ママのこと覚えてる」

「ノー。でも、大きくなっても、おっぱいチュパチュパしてたのは覚えてる」

 エバは苦笑した。

「でも、ママのフォトある。彼女、色白い。ボニータ(美人)」

「パパは」

「パパは色黒い。でもかっこいい。わたしが十八歳のときに死んだ」

「病気?」

「そう。わたし、大学行っていた。でも、パパ死んだ。お金ない。だから辞めた。コロンビアにカムバックしたら、大学に行く」

「大学で何を勉強してたの」

「サイコロジー。分かる?」

「分かる。でも、誰を勉強したの」

「……。忘れた」

 ユングやフロイトの名前でもすっと出てきたら本物だと思ったが、出てこなかった。ほかの女たちと違うんだという見栄を張って、大学中退だと言っているのかと疑ったのだ。

「パパの仕事は何?」

「日本語でうまく説明できない。でも、トラックある。オイルある…」

 身振り手振りから判断すると、石油関係の会社に勤めていたらしかった。でも、五年前に死んだ父親のことをよく知らないとは、おかしいなと思った。父親とは別居していたとか、いろいろ事情があるのだろう。

「エバはいま何歳?」

「二十三歳」

「子供はある?」

「ない。わたし、結婚したことない」

「ホント? でも、日本にいるコロンビアーナは、みんな子供ある」

「子供ある女はいっぱいいる。でも、わたしない」

「じゃ、どうして日本に来たの。あなた、ひとりだったら、コロンビアで仕事して、食べることは出来るでしょ」

「お姉さんのファミリー、貧乏。だから、お金プレゼントする」

「お姉さんのエスポーソ(夫)は?」

「セパレート」

 日本に来ているコロンビアーナの大半は子供がいる。向こうの男はまともな仕事がなかったり、怠け者だったりするので、すぐ別れてしまう。十代で未婚の母になってしまう女も多い。それで、母親に子供を預けて日本に出稼ぎに来るのだ。エバのようにまるっきり独身というのは少数派だ。

 だが、彼女にしても、育ててもらった姉たちに仕送りしたいというのだから、事情は似ている。

 三十分くらい、彼女を片手で抱きながら話をしていたら、また半立ちになってきた。日本人によくいる「もち肌」というのとは違うが、エバの体は触っているだけで反応してしまうのだ。

 半立ちのまま、エバの中に挿入しようとした。エバは「また?」という表情をしたが、嫌がらずに受け入れた。エバの中で、たちまち目いっぱい膨張した。今度は三度目とあって、激しい動きをしてもだいじょうぶだった。エバも声を出し始めた。

 だが、エバのいくタイミングが分からない。「気持ちいい」とは言うが、様子からみて、まだアクメに達しているとは思えない。八合目といった感じだ。経験から言えば、初めての女性とセックスをして、いきなりいかせることができるとは限らない。むしろ、何回か行為を重ねるうちに、お互いのツボが分かってタイミングが合ってくるというケースが多い。

 それよりも、エバがわたしに対して「パピー」という言葉を使わなかったのが気になった。コロンビアーナたちは、「お客さん」ではなく、恋人のような存在の男に対して、「パピー」という言葉を使う。英語で言えば、「ダーリン」に近い。親しい女性には「マミー」と言うが、これはもっと一般的に用いられるようだ。

 もっとも、人それぞれで、すれているコロンビアーナは初対面の「客」に対しても「パピー」と言ったりするので、絶対的とは言えない。だが、ある程度、自分をどう思っているのかのバロメーターにはなるのだ。

 結局、エバの口から「パピー」という言葉を聞くことなく、わたしは果てた。彼女から「パピー」という言葉が出るようになったのは、付き合い出してから約一ヶ月後だった。

 


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