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あるコロンビア売春婦と一年間恋人関係にあった私は、不法滞在で強制送還された彼女を追いかけてコロンビア本国に渡って彼女の家を訪ねた。そこで見たものは…
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「あと、どうする?」

ビルを出たあと、エバが聞いてきた。

「日本に電話したい。仕事の話。あと、カルタヘナの片山さんにも連絡しとかないと」

「オーケー。テレコン行く」

  エバはタクシーを拾って、どこか行き先を告げた。十分ほどすると、「テレコン」と書かれた建物に着いた。電話局らしい。といっても、日本のNTTのように電話の契約や料金の支払いに来るところではなく、電話をかけるための施設だ。

  中に入ると、エバは受付の女性から番号札を受け取って、わたしに渡した。

「リュージ。この番号の電話で電話するの」

「インターナショナルもできるの?」

「だいじょうぶ」

  まずカルタヘナに電話したが、片山氏は不在だったので、奥さんのエレーナにエバの連絡先を教えておいた。次に東京の出版社の編集者に電話したが、まだゲラが出ていなかった。数日後にまた電話するといって電話を切った。

「どうやってお金払うの」とエバに聞くと、「あそこで払う」と窓口を指差した。窓口はガラスで仕切られていた。大金が集まるから強盗を防ぐ意味でもあるのだろうか。

  番号札を差し出すと、料金を書いたレシートを受付の女性が差し出した。一万五千ペソほどだった。

  テレコンには、並んで待つほどではないが、けっこう人で混み合っていた。コロンビアには電話がない家庭が多く、仮にあってもエバのように市外電話の契約をしていない者が多いから、こういう施設が必要なのだろう。

「あと、どこに行く」

「んー、そうだな。CDを買いたい。ミゲル・モリーの『FUNT A TU CORAZON』と、カロリーナの『Y SIENPRE』」

どちらも、よく東京のラテンディスコでかかっているメレンゲというジャンルの曲だが、一年以上探しても見つからなかった。コロンビアに行ったら、ぜひ買おうと思って入手できない曲のリストを持ってきていたのだ。

ところがエバは、ミゲル・モリーの曲はすぐ分かったが、カロリーナの曲はタイトルを言っても分からない様子だった。それで、「こういう曲だよ」と言ってメロディーを口ずさむと、「あー、分かった。オーケー」と言った。

「バス、乗る、オーケー?」

「オーケー」

  いつもタクシーばかりを利用していたのでは、金がもったいないし、そろそろ庶民の足であるバスを利用してみたいと思っていたところだった。

「どのバスに乗るの?  どこに行くか、どこで分かるの?」

「バスの前に書いてある」

  そんなこと言われても、バスの路線なんてさっぱり分からない。バス停でエバと一緒にバスを待っていると、何台かのバスが通り過ぎていった。たしかにバスの前面に行き先らしきものが書いてあった。料金も、バスによって違うらしく、四百ペソとか五百ペソとか書いてある。とにかくエバに任せることにした。

「あ、来た。これよ」

「いくら?」

「四百ペソ」

  庶民の足であるバスにしては少し高いな、と思った。東南アジアのバスなら日本円で十円未満で乗れるからである。

  千ペソ札を出そうかと思ったが、おつりがないとか理由をつけられて、おつりをちょろまかされそうな気がしたので、きっちり小銭で払った。バスは半分くらい席が埋まっている状態だった。大半はオバサンたちだったが、中には若いチンピラ風の男もいた。エバがついているので大丈夫だとは思ったが、いちゃもんでもつけられないかと少し緊張した。

  バスは大通りをノロノロと走った。四駅ほど通過したところでエバが「ここ」と言ったので、慌てて降りた。

  ちなみにボゴタには地下鉄はない。というか、コロンビア自体に「電車」というものがないのだ。かつてはあったらしいのだが、バスのほうが小回りが利くためか、消えていったようだ。(最近、メデジンに地下鉄ができたという話を聞いたが)。

  エバが日本にいたとき、「メトロ」(地下鉄)というスペイン語をわたしが使ったことがあった。だが、彼女はその「メトロ」という言葉が理解できない様子なのでビックリしたことがあった。もちろん、スペイン語の辞書にもちゃんと「メトロ=地下鉄」とある。しかし、コロンビアには地下鉄というものが存在しなかったから、彼女のボキャブラリーにはなかったのだ。いくらなんでも、テレビや新聞、雑誌などで外国の地下鉄くらい見かけるだろうにと不思議に思ったが、それだけ外国の情報に接することができないほど貧しかったのかもしれなかった。


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