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店を出て、タクシーを拾ってテレコンに向かった。十五分くらいでテレコンに着いたが、途中で雨が降り出した。小雨だったので、そのままテレコンに飛び込み、日本に電話をした。昼の二時ころだったので、日本時間では夜中の十二時になる。大手出版社だから誰かはいるだろう。本人が不在だったらエバの電話番号を伝えて、こちらに連絡してもらうつもりだった。
電話してみると、やはり本人は出かけていて、夜中に戻るという。何時でもいいから連絡して欲しいという伝言を頼んで電話を切った。
テレコンの外に出てみると、雨はどしゃ降りになっていた。
「ボゴタは雨が多いのよ」とエバが言った。そういえば、ボゴタに来てからこの四日間、この日ほどの雨はなかったものの、曇天か小雨の日ばかりだった。コロンビアにもやはり、雨季とか梅雨みたいなものがあるのだろうか。
テレコンの入り口の脇に傘を売っている露天商のアンちゃんがいた。エバが「あなた、傘買う?」とわたしに聞いた。傘など日本から持ってきていない。こんなに雨が多いのなら、一つ買っておいてもいいかなと思った。
「いくらなの」
「ちょっと聞いてみる」
日本で五百円くらいで売っているビニール傘のようなものでよかったのだが、売られていたのは折り畳み式の高級傘、しかも女性用の柄の入ったものが二種類おいてあるだけだった。
「八千ペソ。オーケー?」
エバが言った。八千ペソなら約八百円だ。折り畳み式の傘なら、日本では千円程度。ちょっと高級なものでも二千円だ。コロンビアだから二、三千ペソくらいかなと思っていたが、けっこう高かった。しかし、このどしゃ降りでは買うしかない。八千ペソを出して、花柄の傘を一本買った。
「最初、一万と言われたのよ。あなたが日本人だと思って。わたしが『高い』と言ったから八千になったけど、本当は五千くらいじゃないの」
エバが恩を着せるように言った。さっそく傘を広げたが、雨がひどくてほとんど用を足さなかった。下水の整備が遅れているのか、道路もほとんど冠水して歩けない状態だったから、通行人のほとんどが店の軒下で雨宿りをしていた。ちょっとした夕立で家の玄関まで水が入ってきたわたしの少年時代を思い出した。見かけはそれほど貧しくは感じられないが、やはり基本的なインフラが遅れているのだろうか。
わたしたちも少し雨宿りしていたが、なかなか小降りにならない。タクシーをつかまえて、一時エバのアパートへ避難しようとしたが、こんどはタクシーがなかなかつかまらない。ようやく空車を見つけて止めようとしたのだが、乗車拒否をされてしまった。
「あの運転手、お金欲しくない、バカね」
エバが吐き捨てるように言った。わたしが東洋人だから、言葉が通じないと思って敬遠されたのだろうか。これが東南アジアなら、「日本人だな。いいカモだ」とうるさいほど寄ってこられるはずだ。金にうるさい中国人か韓国人と間違われたのかもしれない。
十分ほど待って、ようやく一台のタクシーがつかまった。エバが行き先を告げた。タクシーは、エバのアパートではなく、オフィス街に入って行った。
「どこにいくの」と聞くと、「アビアンカ」とエバは答えた。アビアンカとは、コロンビアの航空会社だ。国内線ばかりでなく、ロスやマイアミなどへの国際線も持っているコロンビアを代表する航空会社である。
「どうするの」
「サンアグスティンへ行く飛行機のチケットを買うの」
驚いた。カルタヘナへわたしを追いやるつもりなのではと思ったら、わたしといっしょにサンアグスティンに行くつもりらしい。本当に何を考えているのか分からない女だ。だが、コロンビア人の恋人とでは、一生サンアグスティンなんてところには行けないだろう。しかし、わたしといっしょならただで行ける。その欲望の方が勝ったのではないか。それでもわたしはいっしょに行ってくれる気になってくれてうれしかった。
翌朝早く、エバは「お義兄さんとアパートを探しに行く。お昼過ぎには帰る」と言い残して出ていった。ゆっくり十一時ごろ起き出したわたしは、自分で目玉焼きとトースト、インスタントコーヒーを作って朝食をとった。
ソファに横になってスペイン語の勉強をしていると、十二時半ごろエバが戻ってきた。
「エバ、アパートはどうした。買うの?」
「ノー。まだ」
あまり話したがらない。本当に義兄と会っていたのか、それとも義兄と何かトラブルがあったのか。理由は分からないが、エバの機嫌が悪いことは確かだった。
「リュージ、あなた、お腹空いた?」
「ちょっとね」
「じゃ、食べに行く?」
「うん。でも、また日本に電話したいんだけど。仕事のことで」
「オーケー。あとでテレコン、行く」
わたしたちはアパートの近所にあるチャイニーズレストランに歩いて行った。二日目にエバが行こうと言っていたのはここだったらしい。こじんまりとした庶民的な造りの店だったが、客は一人もいなかった。わたしたちはチャーハンとエバのお勧めの春巻き、そしてジュースを注文した。春巻きは、日本の中華料理のものとは違って、かなり小さかった。一口大だった。
これを、オレンジ色をした少し辛いタレをつけて食べた。コロンビア風に変化した中華料理のような気がしたが、それはそれでけっこういけた。チャーハンも、パサパサとした長粒米を使っているためか、日本のものよりうまかった。
「リュージ、わたし、前ね。このお店の前でバスを待ってたら、二人組のドロボウに襲われかけたの。ゴールドのネックレスをしてたから、それを狙われたの。慌ててこの店に逃げ込んで、助けてもらったのよ」
「ふーん。でも、ここノルテだろ。スール(南のスラム地区)だったら分かるけど、ここにもドロボウがいるのか」
「いるいる。いつも二人組の男たちが歩いてる。有名。だからわたし、もうコロンビアではネックレスや時計しない。もう二回狙われた」
日本人などの観光客が狙われるというのなら分かるが、エバはここに住んでいる現地人だ。そんな一般人まで狙われるというところにコロンビアの恐ろしさを感じた。
ある自称「軍事評論家」がコロンビアのコカインマフィアに接触するために潜入したという本を以前に読んだことがあったが、実にお粗末なものだった。
数年前に警察に射殺されたメデジンカルテルの大ボス、エスコバルあたりと接触したのかと期待して読み進んだのだが、結局、マフィアと名乗る幹部に農園に案内されたというだけ。ホテルの突然の停電まで対立するマフィアが仕掛けたのではないかと書いている、何から何まで被害妄想的な内容の本だった。
チンケな日本人が一度くらい来たとしても、そんな大組織が相手になどするものか。おそらくガイド付きで観光旅行に来ただけで、たくましい空想力でストーリーを作ったのだろう。
コロンビアに来る前、新宿にいたあるコロンビアーナはこう言っていた。
「わたしたちでもコロンビアに帰ったばかりのころは怖いのよ。日本の安全さに慣れてしまってるでしょ。でも、しばらくすると慣れてしまうけど」
金持ちが狙われるのはもちろんだが、コロンビアの本当の恐ろしさは、誰彼かまわず日常的かつ身近に「暴力」が存在することなのだ。
「リュージ、わたし、ウニベルシダード行く。あなた、ここにいるでしょ」
「うん。ここにいる」
前々日に大学に行ったとき、学長が不在で、二日後に大学に行くといっていた。今日がその日だ。話は符合するが、本当に大学に行くのかどうかは怪しかった。本当は恋人と会うために外出するのではないのか。あるいは恋人といっしょに大学に行くのではないか。もう勝手にしろ、という気持ちになった。
一回セックスしたら、エバの心を取り戻せると思っていたが、かえって彼女の心の傷を深くしてしまったらしい。この先どうなるのか、わたしといっしょにサンアングスティンやカルタヘナに行くのか、それとも明日にでも放り出されるのか、まったく読めなかった。
一人部屋に取り残されたわたしは、彼女のベッドルームでテレビを見ながら過ごすことにした。時差ぼけがまだ抜けず、少しうとうとしていると、電話が鳴った。誰からだろうか。まだエバの電話番号を知っている者は少ないはず。エバがかけてきたのだろうか。
しかし、エバの恋人だったら問題になる。怒った男がこのアパートに乗り込んできて、暴力沙汰にでもなったら…。それよりなによりエバとの関係がとり返しのつかないことになる。
電話をとるかどうか躊躇していると、五、六回で電話は鳴り止んだ。すると再び電話が鳴り出した。しつこく鳴らすのなら恋人に違いないと確信し、とるのを止めた。やはり五、六回で電話は鳴り止んだ。
しばらくすると、エバが戻ってきた。九時ごろだった。
「リュージ。あなた、ここにいたの。電話したのに、どうして出なかった?」
「なんだ、電話したの、エバだったの。誰か分からないでしょ。あなたの恋人だったら、あなた怒る。だから出なかった」
「そう…」
何か用があったのか。わたしの答えに不満そうな、ほっとしたような複雑な表情を見せた。おそらく恋人と一緒にいて、別れた直後にわたしにかけてきたのだろう。
「エバ、大学はどうなったの」
「まだ、分からない」
いくらいいかげんなコロンビアでも、こんなに何度も大学に出かけて結果が分からないというのはおかしい。それに夜間大学でもないのに、昼間ではなく夜に行くというのもおかしな話だ。やはり恋人と会っているのだろう。だから、恋人が絶対電話することはないと分かっていたから、別れた直後に電話したのではないか。だが、わたしにはそれ以上詮索する気にはなれなかった。
「リュージ、わたし、疲れた。あなた、ソファで寝る、オーケー?」
「……」
また、一人寝をする羽目になってしまった。わたしはリビングに戻り、ソファベッドで持参した文庫本を読みながら、いつしか眠っていた。
「リュージ、わたし、ウニベルシダード行く。あなた、ここにいるでしょ」
「うん。ここにいる」
前々日に大学に行ったとき、学長が不在で、二日後に大学に行くといっていた。今日がその日だ。話は符合するが、本当に大学に行くのかどうかは怪しかった。本当は恋人と会うために外出するのではないのか。あるいは恋人といっしょに大学に行くのではないか。もう勝手にしろ、という気持ちになった。
一回セックスしたら、エバの心を取り戻せると思っていたが、かえって彼女の心の傷を深くしてしまったらしい。この先どうなるのか、わたしといっしょにサンアングスティンやカルタヘナに行くのか、それとも明日にでも放り出されるのか、まったく読めなかった。
一人部屋に取り残されたわたしは、彼女のベッドルームでテレビを見ながら過ごすことにした。時差ぼけがまだ抜けず、少しうとうとしていると、電話が鳴った。誰からだろうか。まだエバの電話番号を知っている者は少ないはず。エバがかけてきたのだろうか。
しかし、エバの恋人だったら問題になる。怒った男がこのアパートに乗り込んできて、暴力沙汰にでもなったら…。それよりなによりエバとの関係がとり返しのつかないことになる。
電話をとるかどうか躊躇していると、五、六回で電話は鳴り止んだ。すると再び電話が鳴り出した。しつこく鳴らすのなら恋人に違いないと確信し、とるのを止めた。やはり五、六回で電話は鳴り止んだ。
しばらくすると、エバが戻ってきた。九時ごろだった。
「リュージ。あなた、ここにいたの。電話したのに、どうして出なかった?」
「なんだ、電話したの、エバだったの。誰か分からないでしょ。あなたの恋人だったら、あなた怒る。だから出なかった」
「そう…」
何か用があったのか。わたしの答えに不満そうな、ほっとしたような複雑な表情を見せた。おそらく恋人と一緒にいて、別れた直後にわたしにかけてきたのだろう。
「エバ、大学はどうなったの」
「まだ、分からない」
いくらいいかげんなコロンビアでも、こんなに何度も大学に出かけて結果が分からないというのはおかしい。それに夜間大学でもないのに、昼間ではなく夜に行くというのもおかしな話だ。やはり恋人と会っているのだろう。だから、恋人が絶対電話することはないと分かっていたから、別れた直後に電話したのではないか。だが、わたしにはそれ以上詮索する気にはなれなかった。
「リュージ、わたし、疲れた。あなた、ソファで寝る、オーケー?」
「……」
また、一人寝をする羽目になってしまった。わたしはリビングに戻り、ソファベッドで持参した文庫本を読みながら、いつしか眠っていた。
「リュージ、わたし、ウニベルシダード行く。あなた、ここにいるでしょ」
「うん。ここにいる」
前々日に大学に行ったとき、学長が不在で、二日後に大学に行くといっていた。今日がその日だ。話は符合するが、本当に大学に行くのかどうかは怪しかった。本当は恋人と会うために外出するのではないのか。あるいは恋人といっしょに大学に行くのではないか。もう勝手にしろ、という気持ちになった。
一回セックスしたら、エバの心を取り戻せると思っていたが、かえって彼女の心の傷を深くしてしまったらしい。この先どうなるのか、わたしといっしょにサンアングスティンやカルタヘナに行くのか、それとも明日にでも放り出されるのか、まったく読めなかった。
一人部屋に取り残されたわたしは、彼女のベッドルームでテレビを見ながら過ごすことにした。時差ぼけがまだ抜けず、少しうとうとしていると、電話が鳴った。誰からだろうか。まだエバの電話番号を知っている者は少ないはず。エバがかけてきたのだろうか。
しかし、エバの恋人だったら問題になる。怒った男がこのアパートに乗り込んできて、暴力沙汰にでもなったら…。それよりなによりエバとの関係がとり返しのつかないことになる。
電話をとるかどうか躊躇していると、五、六回で電話は鳴り止んだ。すると再び電話が鳴り出した。しつこく鳴らすのなら恋人に違いないと確信し、とるのを止めた。やはり五、六回で電話は鳴り止んだ。
しばらくすると、エバが戻ってきた。九時ごろだった。
「リュージ。あなた、ここにいたの。電話したのに、どうして出なかった?」
「なんだ、電話したの、エバだったの。誰か分からないでしょ。あなたの恋人だったら、あなた怒る。だから出なかった」
「そう…」
何か用があったのか。わたしの答えに不満そうな、ほっとしたような複雑な表情を見せた。おそらく恋人と一緒にいて、別れた直後にわたしにかけてきたのだろう。
「エバ、大学はどうなったの」
「まだ、分からない」
いくらいいかげんなコロンビアでも、こんなに何度も大学に出かけて結果が分からないというのはおかしい。それに夜間大学でもないのに、昼間ではなく夜に行くというのもおかしな話だ。やはり恋人と会っているのだろう。だから、恋人が絶対電話することはないと分かっていたから、別れた直後に電話したのではないか。だが、わたしにはそれ以上詮索する気にはなれなかった。
「リュージ、わたし、疲れた。あなた、ソファで寝る、オーケー?」
「……」
また、一人寝をする羽目になってしまった。わたしはリビングに戻り、ソファベッドで持参した文庫本を読みながら、いつしか眠っていた。
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