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朝食を簡単に済まし、エバと二人でタクシーを拾い、日系の会社の入っているワールドトレードセンターへ向かった。ワールドトレードセンターは、ボゴタの中心地、セントロというオフィス街にあった。拾ったタクシーの運転手は「ワールドトレードセンターまで」というと「分かった」と言ったが、近くに行ってから迷った。このビルに用があるような人はタクシーなどめったに使わず、運転手付きの専用車で行くからタクシーの運転手は知らなかったのだろうか。
着いてみると、日本の丸の内みたいなオフィス街だった。みんなネクタイをきちんとしている。「コロンビアに行くときは、できるだけ汚い格好をしていけ、あとは現地で衣服は調達すればいい、いい格好していると強盗に狙われるぞ」とアドバイスされていたからフォーマルな服は持って来なかった。いい年をして、綿パンにジャンパー、ナップサック姿のわたしは明らかに場違いな存在だった。
しかし、アポイントしてあるから、いまさら引き返して服を買い、出直して来るわけにもいかない。ビルのガードマンに怪しまれる前に、こちらから○○のオフィスはどこですかと尋ねた。ガードマンはきちんと教えてくれた。
エバが「わたし、アパートに帰っているから、あなた一人で帰って来る。オーケー?」と言った。
冗談じゃない。まだ、わたしは右も左も分からない。こんなところで一人放って置かれても、どうやって帰れというのか。住所をメモってもらっても、タクシーの運転手にどこに連れていかれるか分からない不安もあった。
「ノー。話すぐ終わる。だから、エバ、あなたここのコーヒーショップで待ってる。三十分で終わる」と言った。
実際、昨日アポをとった感触では、迷惑がられているようだった。昼飯でも食いましょうということにはならないだろう。ちょうど、一階にコーヒーショップがあったので、そこで待っててくれるように頼んだのだ。
エレベーターでオフィスに行き、受け付けでA氏との面会を申し込んだ。オフィスの中の様子は日本の一流会社のそれと遜色なかった。受付嬢が変な日本人が来たと怪しまないかと思ったが、アポが通っていたらしく、にこやかに応接室に通してくれた。
しばらくして、A氏がやって来た。もちろん、きちんとスーツ、ネクタイをしている。まずは汚い格好をしていることの非礼を詫び、名刺交換をした。A氏は日系現地法人の社長だった。
わたしはコロンビアでの日本人のナイトライフ、気楽に遊べるナイトスポットについて気軽に聞きたかった。だから、誰か若い遊び好きな日本人に会いたかったのに、相手が社長では、コロンビアの政治や経済などの固い話をするしかなかった。といっても、わたしに専門的な知識があるわけでもない。日本に入って来る情報は、カリカルテルから大統領が政治献金を受け取っていたとか暗いイメージの話ばかりだった。
仕方なしにそんな話を振ると、A氏は「そういう悪いイメージばかりでコロンビアを見られるのは嫌なんですよ。日本では知られていないことですが、コロンビアは世界でオランダに次ぐ切り花の輸出国なんです。コロンビアの国花が蘭で、アメリカなどにいっぱい輸出しているんですよ。そういうところも知ってほしいですね」と言った。
蘭の栽培では日系人も活躍しているらしい。この話は収穫だった。時間と機会があれば、そういう蘭の栽培農場にも行きたいと思った。だが、先にエバの問題を片づけなくてはならない。今回の訪問では、そこまで見るのは難しいだろう。
A氏との話は予想通り、約三十分で終わった。迷惑そうだったから、こちらから話を切り上げたのだ。しかし、蘭の話以外にも収穫はあった。ボゴタに在留している日本人は家族を入れても二百人ほどだという。コロンビア全体でも二千人くらいらしい。約四十万人いると言われているブラジルなどと比べると、桁が二つも違う。日本人に出会わないはずだ。
夜中の三時ころに、小便がしたくなって目が覚めた。トイレに行こうとベッドルームのドアのノブを回したが開かない。鍵を締めてあるのだ。腹がまた立った。わたしはドアをどんどん叩いた。
しばらくして、エバが目をこすりながらドアを開けた。
「トイレ! どうして鍵かける」
わたしは怒りながら言った。
「あなた、ベッドに来る…」
「トイレに行きたいんだよ」
無言でトイレに行き、また無言でリビングの自分のベッドに戻った。エバがベッドルームのドアを閉め、またガチャリと鍵の閉まる音がした。情けなかった。いろいろトラブルはあったが、彼女にはいろいろ尽くしたはずだ。
警察の留置所、刑務所、入管と、彼女が捕まっている三ヶ月の間、二週間に一度、飛行機や深夜バスを使って面会に行った。その度に、彼女は「あなた、いつコロンビアに来る」と言った。彼女が帰ってからの電話でもそう言った。だから、はるばる大金をかけ、休みを二週間取り、こんな地球の裏側までやって来たのだ。それなのに、こんな仕打ちを受けるとは…。
腹が立って眠れずにいると、だんだん空が白んできた。朝まで眠れないかなと思っていたら、いつのまにか眠っていて、目覚しの音で起きた。エバはまだ眠っていた。ドアを叩いて起こし、洗顔とシャワーを済ませた。その間にエバがトーストと卵焼き、コーヒーを作っていた。コーヒーはインスタントだった。
外国に行くとよくコーヒーショップでもインスタントコーヒーを出されてびっくりすることがある。コロンビアはコーヒー豆の大輸出国だ。さぞかしみんなコーヒーばかり飲んでいるのだろうと錯覚するが、いい豆はみんな日本やアメリカなどの先進国に行ってしまうから、一般庶民はコーヒー豆から入れるなんて贅沢なことはしない。インスタントコーヒーをみんな飲んでいる。日本人のわたしだって、高校生になるまでインスタントコーヒーがコーヒーだと思い込んでいた。二十数年前までは、日本だってそうだったのだ。
エバの顔が真っ赤になっていた。酔っているのだ。エバはほとんど酒を飲まない女だった。ところが、たまに何杯か酒を飲むと陽気になり、かつスケベになった。頃合いだと思ってエバを抱き寄せ、キスをした。拒否はしなかった。これは大丈夫だなと踏んで、彼女のバストに口を持っていった。胸をはだけ、乳首を口に含んで舌でころがしていると、エバの体が少しピクッと反応した。わたしは彼女の服を脱がせにかかった。
ところがエバは「今日はここまでよ」と言って、さらりと体をかわし、立ち上がった。そして、リビングにあったソファベッドを平らに倒し、「あなた、ここに寝る」と言った。わたしはエバの気持ちが分からなかった。何をいまさら“おあずけ”するのか。こっちも少しむかっ腹が立ってきたので、無理矢理する気も起きなかった。
「リュージ、あなたパジャマ持ってる?」
「持ってない」
「じゃ、これ使う」
「わかった」
エバは自分のパジャマを持ってきてわたしに渡した。女物だけど青い柄で、別に男が着てもおかしくないものだ。
「明日、何時に起きる?」
「約束は十一時だから、九時ころ起きる」
「じゃ、おやすみ」
エバはベッドルームに入り、ドアを閉めた。バタンと冷たい音がした。仮眠を繰り返していたので、眠たいのだが眠れない。睡眠薬を一錠飲み、「地球の歩き方」のコロンビアの欄や文庫本を読みながら眠気が来るのを待った。それでも二時間くらいは起きていたが、知らぬ間に眠っていた。
「エバ。日本で最初の仕事はどこだったの」
わたしは以前から聞きたかったことを聞いてみた。
「U。わたし、初めのころは、こことMばかりだった」
たしかに、彼女がUとMに仕事が多かったことは前から聞いていた。エバはメモ魔で、手帳にいつどこに仕事に行ったかをすべて書いていて、「Uには何回、Mには何回、Wには何回……」と教えてくれたことがあったのだ。
「それで、初めてのときはタッチショー?」
「ノー。本番」
「エッ、本番?」
普通、来たばかりで勝手が分からない新人の女の子には舞台での本番はさせないで、タッチショーをさせて、個室での本番だけさせて様子をみると聞いていた。だから、いきなり舞台での本番と聞いて驚いたのだ。
「それで、どんなお客さんだったの」
「四十歳くらい。わたし、コロンビアでフェラチオしたことないでしょ。初めて。だから、ヘタ。お客さん、なかなか大きくならない」
「じゃ、できなかったの?」
エバとは何百回とセックスしたが、ほとんどノーマルセックスで、オーラルセックスしたのは数えるほどだった。意外にも、南米にはオーラルセックスが少ないのか、フェラチオは日本に来てから仕事で初めて覚えたと言う女の子が多かった。まして、オクテの学生で、セックス体験も乏しかったエバが、いきなり舞台での本番マナ板がうまく出来るわけがなかった。
舞台に上がっても、恥ずかしかったり元気がなくて、結合できずに舞台を降りる客はけっこういる。わたしは、その客が不能で終わってくれることを願った。その後に彼女の体を通り過ぎて行った、何百人、何千人の男のことを考えれば、一人や二人の男が出来ようと出来まいと関係ないのだが、わたしには最初の客だけは不能であって欲しかった。だが、彼女の口から出た言葉はわたしには残酷なものだった。
「ノー。やった。男、なかなかいかない。だから、わたし、『早く、早く』と言った。それ、わたしが覚えた最初の日本語」
「大阪のイミグレーションのモンキーハウス、お化けが出るの。夜、みんなが寝てると、女の歌が聞こえるの」
「本当かよ。誰かが歌ってたんじゃないのか」
「ノー、ノー。誰も歌ってない。だから、みんな、“怖い、怖い”と言った。看守さんに言ったけど、信じてくれなかった」
大阪の入管の施設は、彼女が収容されたときはできたばかりだった。本当に幽霊が出るとしたら、そこは何かいわくつきの土地だったのだろうか。
「エバには、よくお化けに縁があるなあ。ほら、W市のホテルでも一回あったろ。覚えてる?」
「うん、覚えてる。怖かった」
エバには何度か幽霊にまつわる因縁があった。彼女を仕事先のW市の劇場に送っていくため、前夜、W市のラブホテルに泊まったときのことである。一戦を終え、ビールを飲んで眠り込むと、明け方うなされて目が覚めた。目を開けると天井のシャンデリアがエバの顔になっていた。「えっ?」という感じで目を凝らすと、それが突然、怪物の顔に変わった。
「わっ!」という叫び声をあげると、同時にエバもいっしょに飛び起きた。エバに事情を話すと、「わたしも同じ夢を見た」という。彼女は天井にわたしの顔が浮かび、それが怪物に変わったのだという。何ということか。二人同時に、同じ夢を見たのだ。
「エバ、たぶん、ここで前にサンタマリア(殺し)があったのかもしれないよ。だから、お化けが出るのかも」
と言うと、エバは青ざめた顔で言った。
「リュージ、ここ、怖い。ホテル、チェンジする」
「ノー。大丈夫。面倒くさい。あと、三時間だけ。我慢する」
すでに五時ころになっていた。ホテルを変われば、また泊り料金がかかる。頻繁に彼女と会っていたときだったから、そんな余裕はなかった。それにしても、二人いっしょに同じ夢を見るというのは、幽霊の有無はともかく、エバとは一心同体であった証拠だった。
「S市の劇場の楽屋でもあったよ。夜中に、壁がカリカリ音がするの。だから、みんな朝まで寝れなかった」
「それはミッキーマウス(ネズミだろ)」
「ノー、ミッキーマウスじゃない。ほんと、あそこ怖い。だから、みんな寝ずに新幹線で仕事行った」
S市は東北地方の都市である。東北だと遠くて迎えに行けないから、彼女たちは移動の朝は始発の新幹線などを使って、それぞれの仕事先に散っていった。関東に戻ってくるときは、駅に迎えに行き、そこから仕事先に送っていったりしたのだ。
「ああ、また思い出した。怖い。その話、もういい」
S市の劇場には、一度だけ行ったことがあった。仕事が「ロング」(延長)になって、しばらく東京に戻れない、会いたいから来てくれとと言われ、東北道を五時間走って行ったのだ。といっても、中には入っていない。仕事が終わるのも外で待っていて落ち合ったのだ。
本当は外出禁止のところだったが、彼女は従業員たちが帰ったあと、こっそり抜け出してきた。だから、中の様子は分からないが、建物が古いことは確かだった。昔知っていた女が、この劇場の楽屋はネズミが出るから嫌いだと言っていたので、実際にはネズミを勘違いしたのではないかと思うのだが。
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