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あるコロンビア売春婦と一年間恋人関係にあった私は、不法滞在で強制送還された彼女を追いかけてコロンビア本国に渡って彼女の家を訪ねた。そこで見たものは…
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  エバが行き先を告げ、タクシーは走り出した。だんだんビルが少なくなり、郊外に向かっていくのが分かった。

「お姉さんのアパートはどこ」

「ノルテ」

「エバのアパートと近いの」

「ノー。ちょっと遠い」

  ノルテならエバと同じ地区だ。しかし、同じノルテといっても、日本の山の手と同じように広いのだろう。

「エバ、コロンビアには女のタクシーの運転手って多いの」

「少しいる。でもね、危ないから、彼女、夜遅い時間は仕事しないって。お客さんも、女性とか、きちんとした人だけ乗せる。レイプされることもあるから」

  レイプといえば、エバも日本にいたとき、一度レイプされたことがあった。日本に来たばかりのとき、ある地方都市のスナックに彼女は派遣された。お客に連れ出された彼女は、男の車でホテルに向かった。ところが、男はホテルではなく、林の中に車を入れ、ナイフを出し、「俺はポリスだ。言うことを聞かなければ警察に連れて行くぞ」と、エバを脅した。

「そいつは本当にポリスだったのか」

「ノー。初めてのお客さんだったから分からない。わたし、そのときまだビザあった。でも、日本来たばかり。何も分からない。ポリス、怖い。だから我慢した」

「男はコンドームしたのか」

「ノー。それからわたし、いつもナイフ持っている。お店も、ホテルへはお客さんの車じゃなくて、タクシーで行くシステムになった」

  わたしはこの話をエバから聞いたとき、はらわたが煮え繰り返った。その男が本当に警察官だったのか、それとも警察官を騙っただけなのか分からない。ただ、そういう売春スナックに、権力を利用してただ飲みに来ている警察官がけっこういるということは、ママや女たちからよく聞く。ありえないことではなかった。

  だが、何をされても泣き寝入りせざるをえない弱みに付け込んでレイプするなんて、そいつが警官であろうとなかろうと許せなかった。妊娠や病気をもらわなかったのが不幸中の幸いだった。

 


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  エバは赤いセーターを持ってきて、「これが欲しい」と言った。特別オシャレなセーターでもなく、どことなく子供っぽいものだ。いくらかなと思って値札を見ると、なんと八万ペソだった。わたしがシャツやズボンなどを買い込んだのに近い金額だ。コロンビアの物価からすると、相当高い物だ。材質をチェックしなかったが、アクリルではなく純毛だったのだろうか。

  昨晩のこともあり、エバのご機嫌を損ねてはと思い、「いいよ」と言った。エバはセーターの襟のアクセサリーが気に入らないらしく、店員のおばちゃんに直してもらうという。

  直しが終わるまで待っていると、もう一人のおばちゃんがわたしに話しかけてきた。「日本人か」と言う。「そうだ」と答えると、今度はエバに「エスポーソ(旦那さん)か」と聞いた。エバは「いや、友だちだ」と答えた。

  おばちゃんの質問はさらに続いた。「二人はどこで知り合ったんだ」と言う。返答に困ったエバは、「わたしのおばさんが日本で結婚していて、日本に二週間遊びに行ったとき紹介されて知り合ったの」と答えた。

  おばちゃんは、わたしとエバが日本語で会話しているのを不思議に思ったらしく、「二週間だけ日本に行っただけなのに、あなた日本語うまいね」と追い討ちをかけた。エバは「日本に行く前に一生懸命日本語の勉強をしたんだ」と答えた。

  おばちゃんは終始にこやか話していたが、本当に納得したのだろうか。

  そうこうしているうちにセーターの直しが出来上がり、店を出て、ショッピングモールに着けていたタクシーを拾った。すでに夜の九時ころになっていた。タクシーの運転手は驚いたことに三十歳くらいの女性だった。


 その後、エバは複数の「ボーイフレンド」の間をうまく立ち回り、わたしとステディに付き合っていたときの三倍の効率で金を稼いだようだった。盗まれた百万円も、一ヶ月で取り戻した。エバの部屋にあったビデオカメラや一眼レフカメラ、大きなミッキーマウスのぬいぐるみなどは、その「戦利品」であった。

  エバと切れてから数ヶ月後、一度だけこんなことがあった。新宿にいるエバから電話があった。「今日、時間ある?」という。車で迎えに行くと、「明日の朝、千葉の時計屋さんに連れていってほしい」と言われた。

  お客さんからプレゼントされた十四万円のカルチェの時計が、電池が不良だったのか動かないのと言う。彼女は日本語でうまく説明できないから、いっしょに行って直してほしいらしいのだ。

  どうしてほかの男からプレゼントしてもらった物を、わたしがが直さなくてはいけないのだと腹が立ち、「そんなの、そいつに付いていってもらって直せばいいじやないか」と怒った。すると、エバは「彼はいま、東京にいない。お金だけもらって自分で買った。だからお願い。いっしょに行って」と懇願する。

  翌朝、時計屋に行ってくれということは、今晩一夜を共にすることを意味する。もはや、付き合い出した当初の純朴なエバではないとは分かっていたが、一回セックスをすれば元に戻れるかもしれないという淡い期待があった。男のことは気になったが、エバは「わたし、いま誰も愛してない」と言った。たくさん貢いでくれるから付き合っているだけらしい。

  結局その日は、食事をしたあと千葉に行き、時計屋の近くのホテルに泊まった。シャワーを浴び、ベッドに横になった。当然、セックスをするものと思い、エバのバストに手をかけた。

  するとエバは言った。

「一万円ちょうだい。くれたらセックスオーケー」

  わたしはカチンときた。彼女たちと一晩共にすると、相場では四万円だ。三ヶ月ぶりだし、一万円くらい払ってもいい気持ちはあった。だが、それでは金額は少ないが、エバと付き合っている男たちと同じレベル、すなわち「客」になってしまう。それがいやだった。

「お金?  おまえがホテル行こうと言ったんだぞ」

「そう。でも、あなた、ただでセックスできると思う、間違い」

  ますますカチンときたわたしは、「もういい。寝る」と言い返して寝てしまった。ところが、何百回とセックスしてきた相性のいい女が横に寝ているのだ。夜明けにムラムラとして目が覚めてしまい、また手を出した。するとエバは怒って言った。

「わたし、お客さんとホテル行く。いつも寝るできない。あっちこっち体触る。それ、いらない。寝る、好き」

  蜜月時代は、たとえ眠っていても、何度もわたしの要求に応じたものだ。けっして拒否はしなかった。半分寝ぼけていても、最後は必ず達して終わった。

「こいつはわたしを利用しようとしているだけだな」と感じたわたしは「もう、帰る」と怒って言った。エバは泣きそうな声で懇願した。

「あなた、約束したじゃない。お店にいっしょに行ってくれるって。お願い、いま帰る、ダメ。わたし、一人で行く、できない」

  しかたなく、わたしは翌朝、時計屋に行き、エバの時計の電池交換をしてやった。もちろんセックスはしなかった。これでエバとは完全に切れたなと思った。実際、彼女からの連絡はそれから途絶えた。

  何度か彼女の居場所を突き止め、関係修復を図ったが、彼女の心は閉ざされたままだった。「お金をもらわない限り、誰ともセックスしない」というのだ。銭カネの問題ではなく、そんなエバは、わたしが愛したエバではなかった。


  エバと一年前に一度別れたのは、わたしが彼女の誕生日のプレゼントをケチったのが原因だった。エバは誕生日のプレゼントとして、東京近郊のA市駅前の宝石店で見かけた三万円のダイヤモンドの指輪が欲しいと言った。

  わざわざ遠いA市まで行くのが面倒くさかったわたしは、家の近所にあるジャスコに行った。その中にある宝石店がバーゲンをやっていたので、三万円の商品が二万円にディスカウントしてあったのを買って持って行った。そしたら、「これはわたしの欲しかったのと違う。たぶん、これは七千円、八千円。あなた、ケチ。もう一つ買って」と駄々をこねたのである。

  中小企業の社長やヤクザな商売をやっているオヤジならともかく、わたしはしがないフリーライターである。家族もある。二万円のダイヤの指輪を買うのだって大変なのだ。キレたわたしは、「そんな大きいダイヤモンドはイミテーションだ。オレのは本物だから小さいんだ」と怒鳴った。一万円ケチった引け目があったが、もともとの値段は三万円だ。もう一つ買えと言われるいわれはない。

  その晩ホテルに行っても、わたしはふてくされてソファで寝ていた。結局、エバに「ベッドにおいで」と言われていったんは元に収まった。しかし、そのあとしばらく彼女からの連絡が途絶えた。

  連絡があったのは、二週間後である。彼女は泣きながら電話してきた。

「リュージ。わたしのお金、取られた。泥棒。マレータ(トランク)に入れておいたお金、百万円とダイヤモンド。どうする、わたし」

  彼女はそのとき地方都市のスナックで仕事をしていた。そのスナックの寮であるアパートに置いてあったトランクの鍵を壊され、現金を盗まれたのだ。犯人は絶対にお店でボーイとして働いていたパキスタン人のボーイだという。

  とにかく電話ではらちがあかないから、あとで電話をくれと言って話を終えた。しかし、それからまた、しばらく連絡がなかった。彼女は携帯電話を持っていなかったから、こちらからは連絡が取れなかった。

  電話があったのは二週間後だった。新宿で飲んでいたら、「いま新宿にいる。会いたい」と言ってきた。東京に出てきているのに何の連絡もなかったことに腹を立てたわたしは、「どうして電話しなかったんだ。心配してたのに。お前のコラソン(心)が悪いから、神様が天罰を与えたんだ。前はこんなことなかったろ。お前が『お金、お金』と言うようになってから、何回も悪いこと起きる」

  と言って、彼女をなじった。金銭問題で彼女との関係が悪化してから、彼女は財布を落とすなど、悪いことが続いていたからである。

  カソリックの彼女には、「神様が天罰を与えた」という言葉が相当こたえたらしい。怒って電話を切ってしまった。その後、数回、彼女からだと思われる無言電話があった。新宿の彼女の仕事先には電話があったので、こちらから電話することもできたが、わたしは意地もあって連絡しなかった。それで彼女もキレてしまい、彼女とわたしの絆は完全に断ちきれた。


  二階のフロアーに上がると、レコード店が二つほどあった。どれも小さい。コロンビアには、まだ「タワーレコード」や「HMV」のような大型レコード店はないようだ。CDの値段が一般物価に対してかなり高いのだから、まだまだ経営が成り立たないのだろう。

  ここでもカロリーナのCDがないかどうか聞いてみた。店員に歌の題名を見せても首を傾げている。エバがメロディーを口ずさんだら、店員は「ああー、分かった」という顔をした。だが、「そんな古いの、もうないよ」と言われた。古いといっても二、三年前の曲だろう。こんな小さい店では、在庫を豊富に揃えておくのができないだけなのだろう。

  別の一軒にもなかったので、一服するために軽食コーナーに行った。ハンバーガーやフライドチキンとなど、アメリカ的なファーストフードの店の中に、コロンビアらしい軽食の店もいくつかあった。

  エバが「エンパナーダス食べない?」と聞いてきた。エンパナーダスとは、挽肉に玉ねぎの微塵切り、香辛料などを混ぜ、餃子の皮みたいなものに包んで揚げた、コロンビア風ピロシキのようなものである。日本でも何度も食べていて、好きなメニューの一つだったので、もちろんオーケーした。

  数分して、十個ほどのエンパナーダスとコーラが運ばれてきた。日本で食べたものとは少し味付けが違うが、まあまあいける。

「エンパナーダスにも、ボゴタとカリ、メデジン、コスタ(地中海沿岸地帯)とは味が違うのよ。お店によっても違うし」

「エバはできるのか、これ」

「できない」

  エンパナーダスに似た食べ物は、コロンビアだけでなく、ペルーやブラジルなど、ほかの南米諸国にもあるようだ。もちろん、味はかなり違っている。日本でも、その地域によって味噌汁や雑煮の味が違うように、広いコロンビアなのだから、エンパナーダスの味が違うのも当たり前だろう。いずれ、その土地土地の味を食べ比べてやろうと思った。

「お姉さんにエンパナーダス、お土産に持っていきたいんだけど、いい?」

「いいよ」

「じゃ、お金ちょうだい」

「いくら」

「五千ペソ」

  お姉さんたちには、すでにウイスキーやタバコ、女の子用に歌舞伎模様のTシャツなどを用意している。それなのに、まだお土産なのか。でも、まあ、エンパナーダスくらいならいいかと思い直し、エバに金を渡した。

  洋服店に戻って服を受け取ったあと、出口の方に向かおうと歩いていると、今度はエバが婦人服店の前で足を止めた。

「ちょっと見る。オーケー?」

  しょうがない。店内に入ったがわたしは手持ちぶさたなので、店員のおばちゃんに差し出された椅子に座って、エバが品定めをしているのを眺めていた。エバはセーターをあれこれ物色している。

  しばらくしてエバが寄ってきて、こう言った。

「ねえ、もうすぐわたしの誕生日。だから、セーター、プレゼント。お願い」

 


プロフィール
HN:
出町柳次
性別:
男性
職業:
フリーライター
趣味:
ネットでナンパ
自己紹介:
フリーライター。国際版SNS30サイト以上登録してネットナンパで国連加盟国193カ国の女性を生涯かけて制覇することをライフワークにしている50代の中年。現在、日刊スポーツにコラム連載中(毎週土曜日)。
新著「体験ルポ 在日外国人女性のセックス」(光文社刊)好評発売中。
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