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あるコロンビア売春婦と一年間恋人関係にあった私は、不法滞在で強制送還された彼女を追いかけてコロンビア本国に渡って彼女の家を訪ねた。そこで見たものは…
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 それ以来、エバからは毎日のように「会いたい」という電話がかかってきた。なんとか時間の都合をつけ、一週間に二回くらいのペースで会った。彼女の仕事場には決して行くことは許されなかった。「恥ずかしい」と言うのだ。わたしとしても、彼女が「仕事」しているところは見たくなかった。だから、いつも彼女の仕事が終わるのを外で待ち、落ち合った。

 お金も、「ご飯食べるお金ちょうだい」と言われて、数千円を渡すことはあったが、「お客」が通常払う数万円という金額は要求されたことはなかった。それが救いだった。「オレは客ではない。恋人なんだ」と実感できたからだ。

 しかし、約二ヶ月後の土曜日の夜、ある事件が起こった。待ち合わせ場所で待っていると、エバがバッグも持たずに手ぶらで現れた。そして、「今日、お客さんが四万円でデートしたいと言ってる。あなた、二万円プレゼントしてくれたら、わたし、キャンセルする。どうする」と言ったのだ。

 わたしはショックを受けた。金を要求されたからではない。お金のためとはいえ、彼女がほかの男とホテルに行っていることが分かったからだ。もちろん、エバは娼婦である。しかし、彼女には劇場の仕事で定期収入があった。その中で行われている行為に付いては、不思議と何の嫉妬心もわかなかった。客が彼女を選ぶのであり、彼女が選ぶわけではなかったからだろう。

 だが、劇場の仕事がハネたあと、客と一晩ホテルに行くということは、彼女の自由意思が働いている。そう思うと、急に胸が締め付けられるような気持ちになった。

 劇場の仕事が終わったあと、なじみの客とホテルに行ったり、池袋や大久保のホテル街にタクシーで乗りつけて、立ちんぼのアルバイトをしている女たちがいることは知っていた。だが、約二ヶ月間の付き合いの中で、エバだけはそんなことをしない女だと思っていた。プライベートなときは、時間が許す限りわたしと一緒にいてくれるのだと勝手に思い込んでいたのだ。

 だが、わたしが気がつかなかっただけで、彼女も同じように稼いでいたのだ。

 わたしは彼女をなじった。

「どうしてだ。今日会うのは前から約束していただろ。わたしはエバの恋人じゃないのか」

「恋人。でも、わたし、お金欲しい。わたしだって、こんな仕事悪いのは分かってる。だから、早くお金を稼いで、早くコロンビアに帰りたい。あなた、ヘルプしてくれてもいいでしょ。わたしはいままでずっと、あなたにお金を欲しいと言わなかった。だから、ときどきでいい。一ヶ月に一回でいいの。お金をプレゼントして」

「お金をプレゼントしたら、わたしは『恋人』じゃなくて、『お客さん』になっちゃうじゃないか」

「違う。あなた、わたしの恋人。お客さんじゃない。でも、お金欲しい。どうする」

 わたしは決断を迫られた。彼女の論理としては、本当はわたしと過ごしたい。だが、ひとりの客と一晩過ごせば四万円が手に入る。劇場で何十人もの相手をするに匹敵する金額だ。これは捨てがたい。それに対して、わたしといれば収入はゼロである。だから中間をとって「二万円」という金額を提示したということだろう。

 この当時、幸いわたしには毎月約二十万円の副収入があった。だから単に二万円という金額なら惜しくはなかった。だが、金は要求されないといっても、三日と開けずに「会いたい」と言われて彼女と会っていたら、食事代やホテル代、車のガソリン代などで、それはそのままそっくり消えていた。たまらなくなって、エバに「会う回数を減らしてくれ。ピックアップのときだけにしてくれ」と言ったこともあるほどだ。

 ピックアップとは、彼女たちの移動を手伝うことである。劇場の仕事をしているラティーナたちは、原則として十日ごとに仕事場を移動する。普通は、彼女たちは前夜に宅急便で荷物を送っておき、次の日、朝一番の電車で次の仕事場に行く。だが、特定の恋人がいる女は、前夜に迎えに来てもらい、次の仕事場近くのホテルに泊まって、翌朝送ってもらう。

 仕事場入りする時間は、十時とか十一時と様々だが、少しでも遅刻すれば、ペナルティとして仕事はキャンセルされる。十日間無給になるわけだから、彼女たちも必死だ。寝過ごすのを怖れて、徹夜する女もいる。

 しかし、移動先によっては、電車だとかなり時間のかかる場所もある。ひとりでは、迷って遅刻することもある。駅などで警官に職務質問されて、オーバーステイで逮捕されるケースもある。だから、深夜のうちに車で移動しておいて、安心して眠りたいというのが彼女たちの本音だった。

 わたしはエバと付き合い始めてから、このピックアップを頼まれていた。関東周辺なら、きちんと仕事先まで送り届けた。遠くの場合は、新幹線の駅近くに泊まり、チケットを買って乗せた。仕事のやりくりをするのは大変だったが、サラリーマンではないから、特別の仕事がなければ昼までたいてい自由だったから、なんとか都合をつけた。

 ピックアップを頼まれるということは、特別な関係であるということの証明だ。だが、移動日になると、客やイラン人たちが楽屋に電話をしてきて「次はどこ。送ってやろうか」と誘うことが多かった。実際、ある劇場にエバを迎えに行ったとき、同僚のコロンビアーナがイラン人に誘われて、車に乗っていくところを目撃した。エバに聞いたら、そのイラン人はまったく知らない男で、ただ楽屋に電話をかけてきて誘っただけだという。

 イラン人の車に乗っていると、検問に引っかかったらアウトだ。そうでなくても、彼らの目的は女とやることだけである。送ってやることで、一晩やりまくれればラッキーだと思っている。相手はひとりだ、ひとりなら客を相手するのと変わらない、電車賃を使わずに移動でき、ついでに金ももらえればラッキーだ、と思って付いていったら数人のイラン人にレイプされた女もいるという話もエバから聞いていた。恋人ならともかく、電話一本で見知らぬ男の車に乗って行くなんて、女も女だった。

 だが、エバにだって、そんな話は山ほどあるに違いない。わたしがピックアップを断れば、彼女はほかの男の話に乗る可能性があった。それだけは避けたかったので、わたしはピックアップだけは、彼女と別れるまで一年間守り続けた。

 


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「エバ、いかない?」

「わたし、いくの難しい」

 彼女はなかなかいかないタイプらしかった。それでも、誰とでもいってしまうような女よりも、自分とだけいってくれる女のほうが、男としてはうれしい。彼女と心身とも一体化出来たのは、それから数回逢瀬を重ねたのちだった。

 もう外は白み始めていた。四時半過ぎだった。さすがに疲れた。エバの仕事の時間を確認すると、営業は二時からだが、オフィスには一時までに戻らなくてはならないという。十二時まではゆっくりしていられるが、食事などをすることを考えて、目覚ましを十時半にセットした。

 モーニングコールが鳴る前の十時過ぎに目が覚めた。エバはまだぐっすり寝ている。寝顔が可愛かった。本当に寝ているということは、わたしを信頼しているといことの証でもあった。

 デートスナックで働いていたコロンビアーナ(もちろん性的関係はない)に、こう聞いたことがある。

「わたしは泊まりのお客さんでも、一緒には寝ないよ。朝まで眠らないでじっと待ってる。だって、怖いでしょ。お金払わないでひとりで帰っちゃうかもしれないし。悪い男だったら、殺されるかもしれないしね。だから、泊まりでも七時には帰る」

 わたしには、こんな経験はなかった。「一見の客」ならぬ「一見の女」とホテルに行ったことがなかったからだ。

 テレビをつけて、しばらく見ていたが、エバは完全に熟睡していた。三十分千円の延長料金が気になった。このままほっておいたら、十二時過ぎまで寝ているだろう。そうすると、四~五千円はかかる。だったら、どこかで飯を食ったほうがいい。そう思って、エバを揺り動かした。

 彼女は時計を見て、「まだはや~い」と言って起きない。エバを起こそうと、体を触っているうちに、またわたしの下半身が反応してきた。とにかく信じられないくらい、この日は元気だった。

 エバのパンティーをずり下ろし、彼女の濡れていない局部に挿入しようとした。彼女は寝ぼけていたが、拒否はしなかった。濡れていないので、最初は頭の部分しか入らなかった。それでも軽く腰を動かしているうちに、次第に膣の中が湿り気を帯び始め、するりと根元まで入った。

 もうこのころになると、彼女は完全に目が覚めていて、わたしに合せて激しく腰を動かし始めた。

「おっぱい、つよく揉んで」

 エバが言った。言われたとおり、両手で彼女の大きなバストを鷲づかみにしてして、ギュッと絞り込んだ。エバの喘ぎ声が、ワンオクターブ上がった。誰に教え込まれたのかしらないが、彼女の一番感じる体位らしかった。

 昨晩から四回目とあって、長引くと中折れしてしまいそうだ。エバの絶頂を待たずに彼女の腹の上に膣外射精した。ほんの少しだけ出た。

 二人でシャワーを浴び、あわててホテルを出た。池袋に戻る途中のファミリーレストランに寄って、朝食兼昼食を摂った。彼女たちコロンビアーナは、へたな高級レストランよりもファミリーレストランのほうが好きである。その理由は、メニューに料理の写真が載っているからだ。味よりも、目で確認して、安心して食べたいものが選べるからなのだ。

 食事の最中、エバが「もっと日本語がうまくなりたい」と言い出した。確かにエバの日本語は拙い。クリスがいつ来日したのか知らないが、日本人の恋人がいるという彼女のほうが、はるかにうまかった。エバと会話するには、辞書を引きながら確認して、という状況だった。

 それで、わたしは市ヶ谷にあるスペイン語の本屋に彼女を連れて行こうと思いついた。この本屋には、スペイン語の小説や雑誌、辞書などのほか、スペイン語圏の外国人が日本語を勉強できるよう、スペイン語で解説したテキストも売っていた。エバにそれをプレゼントして、ひらがなからきちんと学ばせようと思ったのだ。

 食事を終えて、すぐに市ヶ谷に車で向かった。あまり時間がない。意外と道が込んでいて、着いたらすぐに引き返さなくてはならない。路上駐車できるスペースがなかったので、近くの駐車場に車を入れて、本屋まで歩いた。

 急がせたら、ブーブー文句を言った。こちらとしては、誰のために一生懸命になっているのかと思うのだが、こういうところがラティーナらしい。

 本屋に入って、すぐに本を選ばせた。スペイン語に飢えているだろうから、小説などの文学書のコーナーに案内したら、見向きもしない。例の「日本語の基礎・スペイン語版」というテキストも見せたが、「いらない。ディクショナリーが欲しい」とわがままを言い出した。

 辞書を探したが、適当なものがない。ハンディな辞書は、すべて日本語の見出しが付いていた。エバの欲しいのは、ローマ字で日本語を表記してあるものだった。彼女がスペイン人の店員に尋ねると、「これしかない」と言って、広辞苑みたいな大きな辞書を差し出した。値段も六千七百円した。こんな大きな辞書は、とても持ち運びが出来ない。かえって使いづらいだろう。

 エバに「日本語の基礎・スペイン語版」にしたらと勧めたが、「これが欲しい」と言って、頑として聞かない。彼女には金も渡していないし、その代わりとしたら安いものだと思い、買った。エバはうれしそうに「ありがとう」と日本語で言った。

 急いで池袋に戻った。時間ギリギリだった。彼女の仕事場近くで降ろし、別れのキスをした。最後まで、お金は要求されなかった。

 


「エバ、日本にはいつ来たの」

「ラストイヤー、七月」

 彼女は多少英語が喋れた。といっても、ペラペラではない。単語をある程度知っている程度だ。英語がまったく喋れないコロンビアーナが多い中で、多少でも喋れるということは、高校程度は出ているのだろうと思った。

 だが、日本に来て十ヶ月にはなる。もう少し日本語が喋れてもよかった。もちろん個人差はあるが、ホステス業が主なフィリピーナだったら、初来日でも三ヶ月くらいでペラペラになってしまう。それに対して、「元気?」「チップ」「早く」くらいの単語を知っていればこなせてしまう劇場の仕事では、日本人の恋人でもいないと上達が早くないのだ。

「どこの出身? メデジン? カリ?」

「ノー。ボゴタ」

 首都であるボゴタ出身のコロンビアーナに出会ったのは、このときが初めてだった。来日しているコロンビアーナの出身地は、圧倒的にメデジン、カリが多いのだ。のちに別のボゴタ出身のコロンビアーナに、その理由を聞いたことがある。彼女は、こう説明した。

「カリやメデジンの女は、子供のときから遊んでばかりいるの。反対にボゴタでは、両親のしつけが厳しくて、勉強ばかりしているの。それでカリやメデジンの女はまともな仕事ができなくて、プータ(売春婦)になる女が多いの」

 ボゴタ出身者の地域ナショナリズムも入っているだろうが、コロンビアサルサの発信地であるカリ、メデジンカルテルの本拠地だったメデジンに「遊び人」が多いことは納得できた。

「ファミリーもボゴタ?」

「お姉さんのファミリーがある。パパ、ママ、サンタマリア(死んだ)」

 コロンビアーナたちは、「死ぬ」ということを「サンタマリア」という隠語で表現する。昇天してマリア様になるということなのだろうが、マフィアに「サンタマリアしてやる」と言われることだけはご免だ。

「ママはどうしてサンタマリア?」

「わたしが五歳のとき、病気で。三十八歳」

「若いね。何の病気」

「知らない」

「エルマーノ(兄弟)、エルマーナ(姉妹)はある?」

「お姉さん、四人いる。わたし、ラスト」

「エルマーノは?」

「いない。女だけ。だから、お姉さん、ママの代わり」

「ママのこと覚えてる」

「ノー。でも、大きくなっても、おっぱいチュパチュパしてたのは覚えてる」

 エバは苦笑した。

「でも、ママのフォトある。彼女、色白い。ボニータ(美人)」

「パパは」

「パパは色黒い。でもかっこいい。わたしが十八歳のときに死んだ」

「病気?」

「そう。わたし、大学行っていた。でも、パパ死んだ。お金ない。だから辞めた。コロンビアにカムバックしたら、大学に行く」

「大学で何を勉強してたの」

「サイコロジー。分かる?」

「分かる。でも、誰を勉強したの」

「……。忘れた」

 ユングやフロイトの名前でもすっと出てきたら本物だと思ったが、出てこなかった。ほかの女たちと違うんだという見栄を張って、大学中退だと言っているのかと疑ったのだ。

「パパの仕事は何?」

「日本語でうまく説明できない。でも、トラックある。オイルある…」

 身振り手振りから判断すると、石油関係の会社に勤めていたらしかった。でも、五年前に死んだ父親のことをよく知らないとは、おかしいなと思った。父親とは別居していたとか、いろいろ事情があるのだろう。

「エバはいま何歳?」

「二十三歳」

「子供はある?」

「ない。わたし、結婚したことない」

「ホント? でも、日本にいるコロンビアーナは、みんな子供ある」

「子供ある女はいっぱいいる。でも、わたしない」

「じゃ、どうして日本に来たの。あなた、ひとりだったら、コロンビアで仕事して、食べることは出来るでしょ」

「お姉さんのファミリー、貧乏。だから、お金プレゼントする」

「お姉さんのエスポーソ(夫)は?」

「セパレート」

 日本に来ているコロンビアーナの大半は子供がいる。向こうの男はまともな仕事がなかったり、怠け者だったりするので、すぐ別れてしまう。十代で未婚の母になってしまう女も多い。それで、母親に子供を預けて日本に出稼ぎに来るのだ。エバのようにまるっきり独身というのは少数派だ。

 だが、彼女にしても、育ててもらった姉たちに仕送りしたいというのだから、事情は似ている。

 三十分くらい、彼女を片手で抱きながら話をしていたら、また半立ちになってきた。日本人によくいる「もち肌」というのとは違うが、エバの体は触っているだけで反応してしまうのだ。

 半立ちのまま、エバの中に挿入しようとした。エバは「また?」という表情をしたが、嫌がらずに受け入れた。エバの中で、たちまち目いっぱい膨張した。今度は三度目とあって、激しい動きをしてもだいじょうぶだった。エバも声を出し始めた。

 だが、エバのいくタイミングが分からない。「気持ちいい」とは言うが、様子からみて、まだアクメに達しているとは思えない。八合目といった感じだ。経験から言えば、初めての女性とセックスをして、いきなりいかせることができるとは限らない。むしろ、何回か行為を重ねるうちに、お互いのツボが分かってタイミングが合ってくるというケースが多い。

 それよりも、エバがわたしに対して「パピー」という言葉を使わなかったのが気になった。コロンビアーナたちは、「お客さん」ではなく、恋人のような存在の男に対して、「パピー」という言葉を使う。英語で言えば、「ダーリン」に近い。親しい女性には「マミー」と言うが、これはもっと一般的に用いられるようだ。

 もっとも、人それぞれで、すれているコロンビアーナは初対面の「客」に対しても「パピー」と言ったりするので、絶対的とは言えない。だが、ある程度、自分をどう思っているのかのバロメーターにはなるのだ。

 結局、エバの口から「パピー」という言葉を聞くことなく、わたしは果てた。彼女から「パピー」という言葉が出るようになったのは、付き合い出してから約一ヶ月後だった。

 


 売春を生業としているラティーナとは、コロンビアーナのテレサのほか、チリの女性と短期間だけ付き合ったことがあった。そのときも、国際電話の出来る公衆電話を探している彼女を案内したのがきっかけだった。

 そのあと食事をし、ボーリングをいっしょに楽しんだあと、ホテルに行った。だが、来日したばかりで彼女には多額の借金があり、次第に金を要求され始めたことから自然消滅した。

 だが、一般的には、ラティーナを恋人にしているのは、日本人にしてもイラン人にしても、最初は「商売」がきっかけで、そのあと「恋愛関係」に進むのだ。こちらのほうが、本当は異常なのだが……。

 インサートするとき、エバはひとこと「あなた、病気ない」と聞いた。もちろん、「ない」と答えた。すると、そのまま生でわたしを受け入れた。それだけわたしを愛しているということの証明であるわけで、そのこと自体はうれしいのだが、エバ自身に病気がないかということのほうが心配だった。

 というのは、エバにはイラン人の恋人がいたという噂があったからだ。わたしに自ら電話をかけて誘ったのだから、すでに別れているとは思った。だが、仕事ではなく「恋人関係」だったら、当然過去に生でセックスをしているはず。そのことが怖かった。だが、エバに「お前こそ、病気はないのか」とは聞けなかった。生の誘惑に負け、成り行きに任せることにした。

 エバとのセックスは、想像以上によかった。こちらが早い動きをすると、いきそうになる。それをこらえながら、エバをいかせようとした。だが、彼女はなかなかいかない。動きを早くすると、漏れそうになる。それで動きを緩めると、彼女のボルテージも下がる。それの繰り返しだった。

 エバたちとディスコに行ってから、一度も出していなかった。貯まっていて、敏感になっていることもあるのだろう。結局、諦めて、コンドームを付けて挿入した。ゴムの感触が感度を鈍らせて、早い動きをしても耐えられた。いいかげん疲れてきたので、そのまま一回目を終えた。エバは完全にはいっていないようだった。

 行為を終えたあと、ふたりで風呂に入った。お湯を流しっぱなしにしていたので、溢れていた。シャンプーで髪を洗ってもらい、石鹸でじゃれあっているうちに、再び息子が頭をもたげてきた。さっき果てたばかりだというのにである。

 エバの肉体は、なぜか触れているだけで肉体が反応してしまう、不思議な体だった。女房だと、こうはいかない。このころは、ほとんど関係がなくなっていた。とくにエバと付き合い出してからは、求められてもピクリともしなくなった。肉体的なものよりも、精神的なものが影響していたと思う。

 エバをバスタブの縁に手を付かせ、バックから挿入した。なかなか難しい体位だった。しかし、固いタイルの上では、正上位はひざが痛くて難しい。気持ちがよくなったところで、一気に膣外射精した。エバの背中に精液が飛び散った。すぐに風呂桶で湯を汲み、手で洗いながら流してやった。

 バスタオルでお互いの体を拭き、ベッドに移った。冷蔵庫からビールを取り出して、二人で乾杯した。激しい行為のあとだっただけに、冷たいビールがうまい。落ち着いたところで、エバのことをもっと知りたくなった。

「エバ、今日、どうして仕事早かった」

「お客さん、少し」

「何人」

「三人」

 一日三人か。普通なら多い人数かもしれないが、劇場の仕事に比べたら、はるかに少ない。N市の劇場のように、料金が安いところでは、売れっ子は一日三十人、四十人の客が付くと言われていた。まるで昔の従軍慰安婦並みだった。女というのは、男と違って、いくらでも受け入れることができるらしい。そんなところと比べたら、一日三人なんて客は、彼女たちにとっては遊んでいるみたいなものだろう。急に暇になり、体がうずいてわたしに電話をしてきたのだろうか。

 ここの賃金システムは、劇場とは違って、基本給一万円に、客ひとりに付き数千円がプラスされるシステムだという。客が多く付けばかなりの収入になりそうだが、宣伝も打たない秘密クラブのようなところでは、多くの客は望めない。店全体で、一日十人程度がいいところではないか。

 


「エバ、あのイラン人、仕事なに? テレフォンカード? コカイン?」

「たぶんそう。あなた、何でも分かるのね」

 エバが苦笑いした。こんな夜中に山下公園に来ているのだから、二人は車でやって来ているのだろう。女は黄金町あたりで立ちんぼをやっているのか。車を持っているイラン人は、けっこういた。まともには買えないから、廃車寸前の車をタダ同然で譲り受け、乗り回しているのだ。免許を持っているのもいるが、保険など入っていないので、事故に巻き込まれたらやられ損だ。どっちにしても、まともな仕事をしていないことは確かだった。

 腹ごしらえを終えたので、エバを中華街に連れていった。当然、店は閉まっている。肉まんを売っている程度だった。

「ここ、チャイナタウン。日本で一番グランデ(大きい)」

「コロンビアにも、チノ(チャイナ)レストランテ、ある。でも、汚い。ミッキー・マウス(ネズミのことだ)いっぱいいる」

「ここ、だいじょうぶ」

 エバはあまり中華街に興味を示さなかった。どこにでも華僑は進出しているから、コロンビアにも中華レストランは何軒もあるだろう。しかし、一般的に、中華料理はコロンビアーナの口に合わないのだろうかと思った。

 中華街を一周すると、ラブホテルがあった。だが、ここに入ると翌朝が大変だ。ぐっと我慢して、車のほうに戻ろうとしたとき、携帯電話が鳴った。こんな夜中に誰だろうと、訝りながら電話に出てみると、友人のカメラマンが新宿で飲んでいるので来ないかという誘いの電話だった。

「横浜にいるんだけど」と言って、いきなりエバに電話を持たせた。エバは「こんばんは」と言って、わたしの友人と話している。向こうが戸惑っている様子が手に取るように分かった。適当なところで交代してもらって、「こういう事情だから、今度にして」と言って電話を切った。エバを電話に出させたのは、彼女に女からの電話でないことを分からせるためでもあった。

 車に戻り、再び高速に乗って、都内に向かった。もう二時を過ぎている。どこのホテルに入ろうか、迷った。池袋のホテルに入れば、エバを送るのに近くて都合がいいが、立ちんぼの女を買ったと思われる危険性があった。立ちんぼが増えて社会問題化し、外国人女性はお断りというホテルも出始めていたのだ。

 同じようなものだが、エバとは「恋愛」でいたかったので、出来るだけ外国人女性のいない地域のホテルに入りたかった。となりの大塚に向かったが、ホテルが見つからず、さらにとなりの巣鴨まで行って、ようやく駐車場付きのホテルを見つけた。

 ウイークデーなので、部屋は空いていた。泊まり料金は九千円。まあまあの広さだった。部屋に入ってすぐ、風呂にお湯を入れ始めた。時間は三時近くになっていた。さすがに疲れた。

 浴槽にお湯が貯まるまで待ちきれずに、二人で服を脱ぎ、シャワーを浴び始めた。エバの体は、なかなか肉感的だった。胸はでかいが、肉質が締まっているので垂れていない。全体的には少し太りぎみだが、ぷよぷよしていないので、それを感じさせない。月並みな言い方だが、グラマーだった。

 ベッドに移って、キスをした。エバのキスはうまかった。たちまち硬直してきた。彼女のバヒーナを確認すると、もう充分に濡れていた。そのまま彼女はわたしを受け入れた。

 ここまでくるのに、かなりの時間がかかった。まるで普通の恋人と同じように、きちんとデートの手順を踏んでセックスまでこぎつけた。これは新鮮だった。


プロフィール
HN:
出町柳次
性別:
男性
職業:
フリーライター
趣味:
ネットでナンパ
自己紹介:
フリーライター。国際版SNS30サイト以上登録してネットナンパで国連加盟国193カ国の女性を生涯かけて制覇することをライフワークにしている50代の中年。現在、日刊スポーツにコラム連載中(毎週土曜日)。
新著「体験ルポ 在日外国人女性のセックス」(光文社刊)好評発売中。
「サイバーセックス日記」http://demachiryuji.seesaa.net/
「洋楽カラオケ日記」
http://ameblo.jp/demachiryuji/
「裏ストリップ30年回顧録」
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