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初めてエバと関係を持ったのは、その数日後だった。昼間、教えた携帯電話に「会いたい」という連絡があった。
「いまどこにいるの」
「池袋」
「テアトル?」
「ノー。アパート。オフィス」
わたしはエバの答えに「? ?」という感じになった。しかし、少し考えて、思い当たる節があった。この数年前、「大人のパーティ」というスタイルの風俗が流行り出し、雑誌などで紹介されていた。日本人の女性が数人マンションで待機していて、部屋の一室でセックスをするというものである。
それに呼応して、最近仕事にあぶれたラティーナを集めて、「金髪パーティルーム」というのが出来たと聞いていた。おそらく、今週はそこで仕事をしているのだろうと思ったのだ。
エバは夜の十一時半、池袋西口のマクドナルドの前に来てくれと言った。仕事を終え、時間をつぶしていると、十時過ぎにまたエバから電話があった。キャンセルかと思ったら、逆に「仕事が早く終わりそうなので、十時半、いや十時四十五分に来てほしい」と言う。
早い分には大歓迎なので、さっそく車で池袋に向かった。しかし、どうしてこんなに早い時間に仕事が終わるのか、不思議に思った。劇場やヘルスのような風俗営業の許可の要る業種は、風営法の関係で十二時までしか営業できない。
だが、マンションでやっている「金髪パーティルーム」などは、とうぜん許可を取らない非合法な店である。したがって、いくら遅くまでやっていても関係ない。むしろ、ヘルスやソープランドが閉まる深夜のほうが、あぶれた客が来て儲かるのではないかと思ったのだ。実際、ホテトルなどは深夜遅くまで営業しているからである。
考えられるのは、マンションで営業しているので、あまり深夜に人が出入りすると当局に目を付けられやすいということと、泥酔した客が来ないように配慮したのではないかということだ。
どこの風俗でも嫌がられるのが酔っ払いである。スナックならともかく、ヌキのある店では、酔っ払ってなかなかいかない客が一番女の子に嫌われるのだ。
西口のマクドナルドはすぐに見つかった。だが、その付近には駐車するスペースがまったくなかった。しかたなく、少し離れた芸術劇場の前の通りに駐車して、マクドナルドで待つことにした。
約束の十時四十五分になっても、なかなかエバは現れない。やはり彼女もラティーナタイムの持ち主なのだろうと思った。駐車違反が気になるので、一度車を見に行った。何も張られていないのを確認して、マクドナルドに戻った。
ようやく十一時半に電話がなった。エバからだった。
「いま、どこにいる」
「マクドナルドで待ってる」
「いますぐ行く」
結局、最初に待ち合わせた時間と同じだったではないか。しばらく待っていると、ジーンズ姿のエバが、横断歩道を渡ってこちらに歩いてくるのが目に入った。
「車はどこ」
「あっちだ」
わたしは芸術劇場の方角を指差した。
「遠いね」
「しょうがない。ここ、パーキング出来ない」
ほんの数百メートルなのに、エバは歩くのを嫌がった。彼女を車に乗せ、とりあえず明治通りに出て、新宿方向に向かった。
「どこに行きたい」
「分からない」
せっかく二人きりになったのだし、初めてのデートだから、どこかドライブに行こうと考えた。
「ヨコハマ行く?」
「なにある?」
「海。大きい船」
「オーケー。行く」
話しているうちに、新宿に来てしまった。外苑から首都高に乗ろうと新宿二丁目の交差点を左折したとき、なにげなく「ここはマリコン(オカマ)がいるカジェ(街)だ」と説明すると、「ホント?」と興味を示した。
「ちょっと見るか」
「見る。見る」
エバは目を輝かせた。
車をパーキングエリアに停め、二丁目の大通りを歩いた。女装したオカマが客と立ち話をしていた。エバがわたしの腕にしがみつき、「ここ、だいじょうぶ?」と聞いてきた。
「どうして」
「コロンビアでは、マリコンはポリス、危ない」
カソリックの教義の厳しいところでは、オカマは神を冒涜するものとして、禁止されているのだろうか。
途中、ネオンが輝いているオカマグッズ屋に立ち寄った。二丁目には三軒ほどあるが、どこにも「さぶ」などのホモ雑誌やホモ写真集、張り型などのグッズが所狭しと置いてある。男性器がもろに写っている写真を見て、エバは「わたし、初めて見た」とうれしそうに言った。
前開きのどぎつい黒や赤のビキニパンティが陳列してあったので、「これ、プレゼントする」と冗談で言うと、「ホント?」と嬉しそうに言った。おそらく、ネコ役のホモがこれを履き、穴の開いたところからタチ役がアナルにペニスか張り型を挿入するのに使うのだろう。
もちろん、そんなものは買わずに、二丁目を一周して車に戻った。外苑で首都高に乗り、横浜に向かった。少し遠回りになるが、レインボーブリッジを経由した。
「ボニート(きれい)」とエバはつぶやいた。コロンビアには高速道路もないらしい。かつて日本人がサンフランシスコの金門橋に抱いたのと同じような憧れを、このレインボーブリッジに抱くらしいのだ。
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