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しばらくエバとラムを飲みながら、ダンスフロアーで踊っている連中を見ていた。エバと踊ろうかと思ったが、バッグが心配なのでやめた。
「本当にディスコ、初めてなのか
「本当。わたし、夜、遊びしない。危ないから」
「だって、恋人いるんだろ」
「いつも、シネ見る。ミュージック聞く、それだけ」
「ふーん……」
たしかに、エバは日本にいるときも、ディスコはあまり好きではなかった。ラティーナだから、踊り自体は躍らせればうまいのだが、週末は朝まで踊り狂わなければいられないといった典型的なコロンビアーナタイプの女ではなかった。
そうこうしているうちに、一時間が経ってしまった。待たせているタクシーが、じれて客を拾ってしまうかもしれない。金は払ってないから、こちらとしては儲かるのだが、タクシーが拾えないのは困る。
チェックをすると、四万ペソほど請求された。
「エバ、高いじゃないか。どうなってるの」
「ちょっと待って」
エバがボーイに話し掛けた。
「ごめんなさい。わたし、間違えた。ボトル、二万ペソね。あと、一人、七千ペソ。それと氷……」
「分かった。五百円なんて、安いと思ったんだ」
たしかにメニューを確認すると、そこそこの値段だ。この店の構えからすると、妥当な料金だろう。勘定はキャッシュで払って店を出た。飲み残したボトルは、そのまま手に持って帰った。ボトルキープ制なんてのはないし、ここでは問題ないらしい。
タクシーの待っている場所に歩いていったが、タクシーがいない。十分ほど遅れたので、さてはほかの客を拾ってしまったのかと思っていたら、するすると例のタクシーが近寄ってきた。少し離れた場所に待機していたらしい。無線で呼んだタクシーだし、料金も払っていなかったから、約束を守ったようだ。
アパートまでは、待機料も含めて三万ペソだった。本当に「ソナ・ロサ」では流しのタクシーが拾えないのかどうかは分からないが、安心料としてはしかたなかったかもしれない。
エバのアパートに戻り、残った酒を飲みながら、荷造りをした。もう一度ボゴタには戻ってくるから、トランクはアパートに残し、リュックサックに衣服やカメラ、土産など、最低限のものを詰め込んだ。
やっと二人の準備が終わったのは、深夜の一時を過ぎていた。早朝六時出発の便だから、五時には空港に着いていたい。そうすると、エバのアパートを、少なくとも四時半には出発しなくてはならない。起きるのは、三時半だ。眠る時間はほとんどなかったが、目覚ましをセットして、この日もわたしはソファベッドで寝た。寝室に戻るエバにタクシーの手配は大丈夫かと尋ねたが、もう予約してあると答えた。
「エバ、どこに行くの」
「わたし、まだコロンビアに帰ってから、ディスコ行ってない。初めて」
「え、どこでもいいよ。危なくないところ」
ディスコといっても、六本木にあるような二、三十人も入ればいっぱいになってしまうようなヒップホップ系のディスコもかなりあった。だが、外から見る限り、いかにも物騒な感じがしたし、どうせならコロンビアらしいサルサ中心の店に入りたかった。
エバが、ある店の前で「ここ、だいじょうぶ」と言った。二階建ての、かなり大きなハコである。店に入ろうとすると、ガードマンが荷物とボディチェックをした。因縁でも付けられて、カメラを没収されるのではないかと思ったが、賄賂も要求されずに入れた。
ボーイに案内されて、一番奥のテーブル席に座った。客の入りは七分といった感じだ。一階はすべてテーブル席で、階段を上がった中二階がダンスフロアーになっていて、テーブル席から踊っている様子が見える構造になっていた。
ボーイが持ってきたメニューを見ると、ウイスキーやラム、コロンビアの焼酎アグアルディエンテやカクテルなどがメニューに並んでいた。ウイスキーやラムなどは、シングルからミニボトル、フルボトルの料金が書いてある。しかし、時間がないのでショットで飲もうと思った。エバに何を頼むかと聞くと、「ラム、ボトルの方が安いよ」と言う。
「だって、飲めないだろ」
「残ったら持って帰ればいい。安い。五百円」
いくらコロンビアが安いといっても、それはないだろと思った。だが、エバが言い張るので、ボトルで頼むことにした。
注文すると、すぐにラムのボトルとグラス、氷が運ばれてきた。店の造り自体は六本木などの店と変わりはなかった。コロンビアでは高級ディスコの部類に入るのだろう。
部屋で一息ついていると、エバが「今日は金曜日。ディスコに行こう」と言い出した。
コロンビアの表看板といえば、サルサ。ディスコはあちこちに無数にあり、ボゴタでも「ソナ・ロサ」「ラ・カレラ」などディスコの密集地帯があると聞いてきたが、まだ一度も行ってなかった。行ったとしても、金曜日、土曜日の週末でなければ人が集まっていなくて面白くない。今日は、その金曜日だ。行かない手はなかった。
「オーケー。行く。でも、明日早いから少しだけだよ」
「じゃ、タクシー呼ぶね」
十分ほどして、インターフォンが鳴った。管理人の男から、タクシーが来たと連絡があったらしい。
ディスコの密集地帯のひとつ、「ソナ・ロサ」には十五分ほどで着いた。ネオンが光り輝く大小のディスコが何本もの通りに密集している。さながら六本木のようだ。タクシーを降りようとすると、運転手がエバに何やら言った。ここでは帰りのタクシーが拾えないから、貸切にしないかと持ちかけられたのだ。運転手にしてみれば、待ち時間と帰りの分の料金も稼ぐことが出来る。ていよくカモられるのではないかと思ったが、エバに相談すると、「金曜日だから、つかまらないかもしれない」というので、一時間だけ待っていてもらうことにした。
ほとんどの客は車で来るためか、中心街は路上駐車でいっぱいのため、ディスコ街の外れで車を降り、そこで待たせた。二人でぐるっとあたりを一周した。通りには、数人ずつの男たちが、あちらこちらで何をするでもなくたむろしている。緊張感が走った。カメラとビデオカメラが入ったバッグを固く握り締めた。写真かビデオを撮ろうかと思ったが、コロンビアではビデオなんてまだまだ貴重品だ。コカインでキメている連中に因縁つけられても困るので、とりあえず控えた。
リリアナ一家はみんな家にいた。リリアナの七歳の娘は、わたしが前回持っていったお土産のTシャツを着ていた。日本の絵柄のTシャツを着ていると、一族にジャパゆきさんがいるのが分かってしまうと、敬遠されるのではないかと思っていたが、そんな心配はいらないようだった。だが、無職の旦那だけは日本人のわたしに抵抗があるらしく、知らないうちに出ていってしまった。
「リュージ、子供、かわいそう」
エバが、リリアナの生まれて五ヶ月の赤ちゃんを抱き上げながら言った。リリアナは、エバが逮捕されたとき、ちょうど産休で会社を休んでいた。リリアナの家には電話がなかったので、会社の同僚経由でエバの逮捕や強制送還の時期について、逐一伝えていたのだ。
「子供ね、喉が悪いの。生まれてからずっと」
気管支炎か喘息らしかった。リリアナは、子供の病気の看病が大変で、仕事も休みがちなのだという。それなのに、相変わらず無職の亭主はぐうたれていた。妻が働いている間、赤ちゃんの面倒を見ているのかもしれないが、ヒモ亭主であることに変わりはなかった。
「さっきね、リュージと日本レストランに行って食べてたの」
エバがリリアナに言った。
「リュージ、お土産、お姉さんにプレゼント、いいでしょ」
「ああ、いいよ」
わたしはバッグの中からパック詰めされたお弁当の残りを取り出した。エバはスペイン語で、「これは何、あれは何」と説明し始めた。リリアナと娘が「キャー」と言いながら笑っている。二人は、お弁当のおかずに手をつけようとしたのを止めてしまった。
「何言ってんだ」と聞くと、「わたしね、日本人は蛙とか蛇を食べるの。だから、この鳥のから揚げは蛙のから揚げでと言って説明したの。そしたら、そんなの嫌だって」
「バカヤロ。それは嘘。嘘」
と、説明したが、エバの話の方を信じたのか、まったく手を付けようとしなかった。わたしたちが帰ったあと、恐る恐る食べるのだろう。放っておくしかないなと思って、そのままにした。
エバが「明日、早いから帰る」と言い、二十分ほどでリリアナの家を出た。今日は何も買い物をさせられないかな、と思っていたら、やっぱり近所の食料品店に寄り、二千円分ほどの食料品を買いこんだ。もちろん、代金はわたしが払う羽目になった。
リリアナたちに見送られ、バス停まで来た。バスが来るまで十分ほど待った。タクシーが通りかかれば乗ろうと思ったが、やはり流しのタクシーは通らなかった。
「気をつけてね」と言うリリアナの言葉に見送られて、わたしたちはバスに乗った。幸いチンピラ風の男たちは乗っていなかったが、用心のため、運転手の近くの席に二人で座った。
前回と同じように終点のショッピングセンターでバスを降り、タクシーに乗り換えてエバのアパートに戻った。
日本人とコロンビア人のグループが店に入ってきた。そろそろ店のかき入れ時らしい。それを汐に、帰ることにした。マスターにチェックを頼むと、「タクシーは呼びますか」と言う。大通りからだいぶ離れているこの店だと、タクシーは電話で呼ばないと、つかまらないだろうと思って頼むことにした。
「十分ほどで来ます」
マスターは電話を切って、そう言った。勘定は三万五千ペソほどだった。カードが使えるので、カードで支払った。日本円で三千五百円ほどだから、日本だったらキャッシュで支払う額だが、コロンビアだとあまり抵抗がない。それに、せっかく両替したキャッシュは残しておきたかった。
店の前に車が止まる音がした。
「タクシーが来ましたよ」
マスターの合図に合わせて、わたしたちは腰を上げた。
「また、ボゴタに戻って来られるんですね。時間があったら、またどうぞ」
マスターに見送られて店を出た。店の前には、三十歳くらいの細身の男が車のドアを開けて待っていた。しかし、車はタクシーではなく、普通の乗用車だ。おかしいなと思ったが、エバはさっさと乗り込んだ。
「お姉さんのアパートへ行くね」とわたしに言い、運転手に行き先を告げた。どうなっているのかエバに尋ねると、エバは運転手となにやら話したあと、こう言った。
「彼、本当は観光ガイドなの。英語もフランス語も話せるの。でも、ガイドの仕事がないときは、タクシーのアルバイトをしてるの」
マスターの紹介なのだから、危ないとは思わなかったが、白タクが来たのにはびっくりした。もちろん、コロンビアでも白タクは違法なのだろうが、タクシーだって、免許を持たないエバが買ってしまうほどなのだから、免許を得るのもかなりいいかげんだろうとは思った。
二十分ほど走って、エバのお姉さん、リリアナの家族が住む団地に着いた。料金は五千ペソ払った。タクシーと変わらない値段だった。
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