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クリスマス直後の二十六日に面会に行った。前回から飛行機代を節約して、深夜バスで行ったのだが、このときは途中で大雪となり、到着予定の朝になっても、まだバスは三重県に入ったところだった。
途中で降りるわけにはいかないので我慢して乗っていたが、夕方になってようやく神戸に着いたところで我慢の限界を超えた。このままだと着くのは翌朝になってしまうらしい。バスも片道分払い戻してくれるというので、神戸で降りて新幹線と在来線を乗り継いで、深夜にM市にたどり着いた。そのままカプセルホテルに泊まって、翌朝面会に行ったのだ。
深夜バスは完全リクライニングになっていて、普通の観光バスや長距離バスに比べてはるかに楽だが、三十時間の長旅はこたえた。もう金輪際冬場の深夜バスには乗るまいと思ったほどだった。
「リュージ、クリスマスに来てくれてありがとう。わたし寂しかった」
エバはセーター姿で面会室に現れた。わたしはセーターを差し入れた覚えはない。おかしいなと思って、「誰か面会に来たのか」と聞くと、彼女はあっさりと「友だちがN市から来た」と言った。N市は北関東のある都市で、エバが本拠地にしていた仕事場のひとつがあるところだった。
面会に来たということは、エバの本名を知っているということである。彼女の身を案じた一番の親友であるクラウディアにさえ、コロンビアの連絡先を教えるなといった彼女のことだから、よほど親しい関係である。少なくとも「お客さん」レベルでないことは確かだ。わたしはこんなに苦労して面会にやって来ているのに、まだ二股かけられていると思ったら、バカらしくなってしまった。
「エバ。恋人が来るのだったら、俺はもうここに来ないよ」
「違う。恋人じゃない。友だち」
「いつ来たんだ」
「二週間前」
「今度、いつ彼は来るんだ」
「知らない。たぶん来ない。だから、あなたここに来る」
「どうして来ない」
「彼、遠い」
遠いといったら、ここからN市と東京はどっこいどっこいだ。羽田空港へのアクセス時間が一時間ほど余分にかかるという程度に過ぎない。一回わずか十五分面会するために、六万円も七万円もかけて来る阿呆はわたしだけだと思っていた。おそらくその男もわたしと同じように「一回だけ」と思って面会に来たのだろう。だが、エバのことだ。わたしと同じように、「あなただけ。助けて」と言われたのではないか。いや、エバは正直に「前の恋人が面会に来ている」と言った可能性もある。わたしの頭の中をいろんな思いが錯綜した。
しかし、その男がクリスマスに来なかったのは確からしい。高い金を払ってここに来ても、彼女とセックスできるわけではない。普通の男なら、さっさと見切りをつけ、新しい女を見つけるのに精を出すだろう。その不安もあって、エバはわたしを頼っているのではないか。
わたしは騙されてもいいから、この際、最後まで見届ける覚悟を決めた。
「リュージ。裁判、決まった。一月十七日。あなた、来る?」
「知ってる。手紙が来た。行く。でも、お金ないから、それまではここに来れないよ」
「だいじょうぶ。それ、お姉さんに伝えて」
「オーケー。でも、手紙にお姉さんの手紙はお金がかかるからいらないと書いてあったけど、いくらかかるの」
「三千円」
「えっ、三千円?」
わたしは金額を聞いて驚いてしまった。かけがえのない肉親からの手紙をいらないというのだから、二万円くらいはするのだろうと思っていたのだ。分量にもよるだろうが、翻訳のために刑務所を往復したりする交通費や手間賃を考えると、そのくらいが妥当な額だと思っていた。手紙だって、毎日来るわけではない。せいぜい二週間か一ヶ月に一回だろう。大金を持っているのだから、そのくらいケチらなくてもいいのにと思ったが、一円でも多く国に持って帰りたいと思っているのだろう。しまり屋のエバらしかった。
「コロンビアのお姉さんから、宅急便がきた。服とかお菓子とかいっぱい入ってた。そんなにいらないのに」
エバが苦笑しながら言った。お姉さんのリリアナは、獄中で寂しい思いをしているエバのためを思って、必死で必要だと思うものをかき集めて送ったのだろう。だが、お菓子などはおそらく食べられないだろうし、洋服だって、帰るときにはほとんど捨てなければならないはずだ。リリアナが送ったものは、ほとんど無駄になるだろう。
クリスマス直後の二十六日に面会に行った。前回から飛行機代を節約して、深夜バスで行ったのだが、このときは途中で大雪となり、到着予定の朝になっても、まだバスは三重県に入ったところだった。
途中で降りるわけにはいかないので我慢して乗っていたが、夕方になってようやく神戸に着いたところで我慢の限界を超えた。このままだと着くのは翌朝になってしまうらしい。バスも片道分払い戻してくれるというので、神戸で降りて新幹線と在来線を乗り継いで、深夜にM市にたどり着いた。そのままカプセルホテルに泊まって、翌朝面会に行ったのだ。
深夜バスは完全リクライニングになっていて、普通の観光バスや長距離バスに比べてはるかに楽だが、三十時間の長旅はこたえた。もう金輪際冬場の深夜バスには乗るまいと思ったほどだった。
「リュージ、クリスマスに来てくれてありがとう。わたし寂しかった」
エバはセーター姿で面会室に現れた。わたしはセーターを差し入れた覚えはない。おかしいなと思って、「誰か面会に来たのか」と聞くと、彼女はあっさりと「友だちがN市から来た」と言った。N市は北関東のある都市で、エバが本拠地にしていた仕事場のひとつがあるところだった。
面会に来たということは、エバの本名を知っているということである。彼女の身を案じた一番の親友であるクラウディアにさえ、コロンビアの連絡先を教えるなといった彼女のことだから、よほど親しい関係である。少なくとも「お客さん」レベルでないことは確かだ。わたしはこんなに苦労して面会にやって来ているのに、まだ二股かけられていると思ったら、バカらしくなってしまった。
「エバ。恋人が来るのだったら、俺はもうここに来ないよ」
「違う。恋人じゃない。友だち」
「いつ来たんだ」
「二週間前」
「今度、いつ彼は来るんだ」
「知らない。たぶん来ない。だから、あなたここに来る」
「どうして来ない」
「彼、遠い」
遠いといったら、ここからN市と東京はどっこいどっこいだ。羽田空港へのアクセス時間が一時間ほど余分にかかるという程度に過ぎない。一回わずか十五分面会するために、六万円も七万円もかけて来る阿呆はわたしだけだと思っていた。おそらくその男もわたしと同じように「一回だけ」と思って面会に来たのだろう。だが、エバのことだ。わたしと同じように、「あなただけ。助けて」と言われたのではないか。いや、エバは正直に「前の恋人が面会に来ている」と言った可能性もある。わたしの頭の中をいろんな思いが錯綜した。
しかし、その男がクリスマスに来なかったのは確からしい。高い金を払ってここに来ても、彼女とセックスできるわけではない。普通の男なら、さっさと見切りをつけ、新しい女を見つけるのに精を出すだろう。その不安もあって、エバはわたしを頼っているのではないか。
わたしは騙されてもいいから、この際、最後まで見届ける覚悟を決めた。
「リュージ。裁判、決まった。一月十七日。あなた、来る?」
「知ってる。手紙が来た。行く。でも、お金ないから、それまではここに来れないよ」
「だいじょうぶ。それ、お姉さんに伝えて」
「オーケー。でも、手紙にお姉さんの手紙はお金がかかるからいらないと書いてあったけど、いくらかかるの」
「三千円」
「えっ、三千円?」
わたしは金額を聞いて驚いてしまった。かけがえのない肉親からの手紙をいらないというのだから、二万円くらいはするのだろうと思っていたのだ。分量にもよるだろうが、翻訳のために刑務所を往復したりする交通費や手間賃を考えると、そのくらいが妥当な額だと思っていた。手紙だって、毎日来るわけではない。せいぜい二週間か一ヶ月に一回だろう。大金を持っているのだから、そのくらいケチらなくてもいいのにと思ったが、一円でも多く国に持って帰りたいと思っているのだろう。しまり屋のエバらしかった。
「コロンビアのお姉さんから、宅急便がきた。服とかお菓子とかいっぱい入ってた。そんなにいらないのに」
エバが苦笑しながら言った。お姉さんのリリアナは、獄中で寂しい思いをしているエバのためを思って、必死で必要だと思うものをかき集めて送ったのだろう。だが、お菓子などはおそらく食べられないだろうし、洋服だって、帰るときにはほとんど捨てなければならないはずだ。リリアナが送ったものは、ほとんど無駄になるだろう。
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