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「分かった。二万円プレゼントする。でも、わたしは『お客さん』になるのは嫌だから、今晩はセックスしない。いいな」
「分かった。ちょっと待っててね」
エバは楽屋に戻って行った。お客に断りの電話を入れに行ったのだろう。
毎日でもいっしょにいたいほどの関係だったから、セックスしたいのはやまやまだったが、わたしにとっては「金ではセックスしない」というのが彼女への、わたしの愛の意思表示だった。それ以上に、知らないのならともかく、分かっていて彼女をほかの男に抱かせたくなかった。
五分ほどでエバは戻ってきた。今度はバッグも持ってきている。彼女を助手席に乗せ、二万円を渡した。近くのファミリーレストランに行った。わたしは何を言っていいか分からず、黙っていた。
「怒ってる?」
「怒ってないよ」
それだけ言って、また黙っていた。彼女は「これ、返す」と言って、二万円を突き返してきた。だが、いったん渡したものは受け取れない。再度、彼女の手に二万円を握らせた。
そのあとホテルに行ったが、宣言したとおり、彼女には手を触れなかった。気まずい雰囲気が続いたが、そのうち疲れていた彼女は眠ってしまった。もちろん、迫れば彼女はわたしを受け入れるだろう。だが、わたしは「わたしはお前の周囲にいる男たちとは違うんだぞ」ということを彼女に分からせたかった。だから、意地でも指一本触れなかった。
それ以来、エバは食事代やラジカセ、ゲームボーイなどをねだることはあっても、数万円単位の現金を要求することはなかった。
その代わり、彼女はわたしと付き合い出してから一年間、一日も休まず働いた。本当は休ませたかった。休みを取らせ、温泉や京都・奈良などの観光地に連れて行きたかった。深夜に落ち合い、ホテルに行ってセックスをして、朝送り届けるというだけの行為には飽き飽きしていた。
だが、彼女たちの休みは十日間単位である。その間は無給になる。普通は二~三ヶ月に一回は休みになるのだが、エバはプロモーターに頼み込んで、どこかの仕事場に押し込んでもらっていた。性格もよく、客受けもいいエバは、プロモーターにも好かれているらしく、無理を聞いてもらえた。
わたしにとって、一番楽しかったのは、エバが二ヶ月間、劇場ではなく千葉のスナック勤めをしているときだった。昼から営業している劇場と違って、スナックだと夕方まで自由時間である。そのときは、朝から海へ行ったり遊園地に行ったりした。本当に楽しかった。
しかし、エバは「スナックはデート少ない。三日にひとりくらいしかお客さんつかない。わたし、スナック嫌い」と言い出し、劇場の仕事に戻ってしまった。無理に休ませれば、アパートのないエバを泊めるウィークリーマンションでも借りる必要があったし、彼女が稼ぎ損ねる金額を保証させられかねなかった。
劇場の仕事であれば、十日間で固定給十三万円のほかにプライベート料金のバックやチップ、なじみの客とホテルに行ったときのデート代などで三~四十万円は稼いでいた。そんな金をわたしが肩代わりできるはずもない。彼女の好きなようにさせるしかなかった。
普通のコロンビアーナは、ここまで金に固執しない。借金を払い終わり、フリーになったら、友だちの紹介でスナックやヘルス、立ちんぼなどに「トラバーユ」する。劇場の仕事は肉体的にハード過ぎるから、収入が多少減っても、拘束時間が少ない仕事に移るのだ。借金さえ払い終わっていれば、プロモーターが仕事場を変わることに干渉はしない。そのへんはまったく自由意思で行われる。
プロモーターの紹介ではなく、フリーでスナックで働く場合、本当に自由出勤である。日当は店によって違うが、だいたい五千円から一万円。デートの客が付いたら、その日当は払われない。八時とか九時とかの出勤時間に遅刻しても、日当はカットされる。それで、気分が乗らなかったりすると、勝手に休んでディスコで踊っている。夕方まで寝ていられるから、不況でデートする客が付きにくいということを除けば、天国みたいな環境だ。
立ちんぼも、シマを仕切っているやくざに規定のショバ代さえ払っていれば、何時に行って何時に帰ってもいい。警察や入管の取締りがありそうだという情報が入れば、休む。危険性さえ考えなければ、一番効率のいい職場だ。エバも一時、友だちに誘われて、夜中にアルバイトしたことがあったらしいが、「わたし、男に声をかけるの恥ずかしくて出来ない。酔っ払いも怖いし」と言っていた。積極的に声をかけなくては仕事にならないので、向き不向きがあるのだ。
ヘルスや金髪パーティルームは、それほど自由ではない。拘束時間も比較的長いし、女の子のローテーションもあるから勝手には休めない。オーバーステイだと働かせないヘルスもあった。
わたしとしては、エバにせめて都内のスナックで働いてもらいたかった。ビザがないから、ホステスだけの店では働けない。当然、デートスナックしかないだろう。それはしょうがないとしても、いっしょにアパートを借り、食事を作ったり、休みにどこかに出かけたりという生活をしたかった。だが、彼女は短期間で確実に稼げる劇場の仕事を辞めようとはしなかった。
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