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エバを見送って、タクシーで片山氏たちと待ち合わせているヒルトンまで戻った。運転手のほうは問題なく、一万ペソ払ったら、喜んで帰って行った。神経の使いすぎかなとは思ったが、用心にこしたことはない。
片山氏たちは、すでにロビーで待っていた。十日ぶりの再会である。すぐに片山氏たちのすんでいるマンションに連れて行かれた。片山氏たちはホテルに滞在していたのではなく、日本でいうウイークリーマンションに住んでいた。一ヶ月や二ヶ月という長期間の休暇を過ごす人たちのために、このカルタヘナには、週単位や月単位で貸すマンションがいくつもあるのだ。
このマンションにはフロントがあり、入居者以外は侵入できないようセキュリティもしっかりしていた。部屋によって広さは違うのだろうが、ニLDK、キッチンもちゃんとあり、自炊をすればホテルに泊まるよりもはるかに安上がりになる。
「どこに泊まってたの。ホテルカリベ? あんなとこ高いでしょ。今度来るときは、ここを借りなさいよ。安いわよ」
片山氏のワイフのエレーナが言った。たが、果たして二度とコロンビアに来ることがあるだろうか。エバとの問題があったからだ。万一来たとしても、同じところに一週間も二週間も留まることは、仕事を続けている限りあるまい。
「エバとはどうだった」
片山氏は、一番答えにくいことを聞いてきた。エバにコロンビア人の恋人が出来ていたことを最初に見抜いたのはエレーナだ。女の直感とは恐ろしいものだ。たしかに最初は、このままエバとは縁を切って、カルタヘナにいる片山氏たちに合流しようかと思った。
だが、十日間エバと過ごすうちに、というより毎日のように「誕生日のプレゼント」をしているうちに、だんだん溝が埋まってきた。ここ数日間は、昔のような「一心同体」になったような錯覚さえ覚えた。しかし、わたしが日本へ帰れば、彼女は何食わぬ顔をして、コロンビアの恋人のもとへ帰るだろう。まだ、わたしはエバとの関係を冷静に見つめることが出来た。
「女ってのは、プレゼントで変わるものですね。毎日のように、『誕生日のプレゼント』を要求されましたよ。でも、それで何か昔の関係に近くなったような気がしますけど」
「そりゃ、どこの女だって同じだよ。でも、エバもちゃんとリュージさんの面倒を見たんだ。やることはやったんだから、それでよしとしなくちゃ」
運転手はエバに付いて、店が建ち並ぶ路地に入っていった。わたしはチップをもらった少年たちが信用できるのか心配になって、車から離れることが出来なかった。本来ならば、こんな路上にたむろしている少年たちが、スリやかっぱらい、置き引き、車上狙いをやっているのだ。それをチップをやったぐらいで信用できるのか。
だが、カルタヘナを流している運転手にとって、少年たちは顔なじみなのかもしれない。ひょっとしたら、身内なのかもしれない。わたしはエバに付いて行くべきか、それともこのまま車を見張っているべきか迷った挙句、商店街の入り口まで歩いた。ここからだと両方見渡せるからだ。だが、店の中に入ったエバたちの姿までは見えなかった。
五分ほどそのまま待ったが、エバたちは店から出てこない。車のほうを見たら、子供たちは別にいたずらしている様子はなかった。意を決して、エバたちの様子を見に行こうと、歩き始めたとたん、運転手を従えたエバの姿が目に入った。運転手はビデオのパッケージを重そうに抱えている。ご苦労なことだ。
「エバ、時間がないよ」
「だいじょうぶ」
タクシーに乗りこんで、急いで空港に向かった。
「ひとりでビデオをセッティングできるのか」
「できる。心配ない。これでレンタルビデオ、見れる。わたし、ハッピー、ハッピー」
エバは無邪気に喜んで、運転手の目も気にせず、体をわたしの方に預けてきた。女の気持ちはプレゼント次第だというのは、古今東西変わらないのだろうか。
五分ほどで空港に着いた。すでに六時十五分ほど前である。運転手がビデオを抱えて、空港のチェックインカウンターまで着いて来てくれた。乗り遅れるのではないかと心配したが、シーズンオフで乗客が少ないのか、無事にチェックイン出来た。ゲートまで見送ったが、別れ際に「じゃ、あさってな」と言うと、「待ってる」と答えた。
タクシーの運転手が最後にエバに何か告げた。それを受けて、エバがわたしに言った。
「彼、いろいろ助けたから、八千ペソじゃなくて一万ペソ欲しいって。いい?」
もともと片道五千ペソで、往復一万ペソのところを八千ペソに値切ったのだ。ビデオも運んでもらったし、一万ペソを要求されても文句は言えないと思った。それよりも、帰りはわたしひとりになる。怒らせて、とんでもないところに連れて行かれるほうが怖かったので、一万ペソで了承した。
「ない」
「だから言っただろ。欲しいのなら、ボゴタで買えばいいじゃないか。なんでこんなところで買うんだ。重たいぞ。空港ではどうするんだ。今日はひとりでボゴタに帰るんだぞ」
「だいじょうぶ。今日と明日、わたし、ひとり。寝る、寂しい。ビデオがあったら、レンタルビデオ借りて見るから、わたし、寂しくない。たぶん、近くにもうひとつお店がある」
「いいかげんにしろ。早く食べないと、時間に遅れて、飛行機に乗れないぞ」
わたしの声の大きさにシュンとなったエバは、諦めておとなしく食べ始めた。魚の種類は分からなかったが、白身魚をパリっと揚げたものだった。熱帯の魚らしく、身に締まりはなかったが、味は淡白で、まあまあの味だ。
五時を過ぎたので、あわてて清算してタクシーを拾った。運転手は三十くらいのやせた背の高い男だった。エバを送って、わたしは片山氏たちがいるヒルトンホテルの近くに戻らなくてはならない。エバに交渉してもらうと、往復八千ペソで話がまとまった。
だが、車がセントロ地区の商店街を通りかかったときである。エバが突然、「停めて」と言った。
「なんだ」
「あそこ、マーケットある。見てくる」
一本の路地があり、たしかにアメ横のように個人商店のような小さな店が両脇に並んでいた。電気店もありそうだった。
「ええっ。もう時間ないぞ」
「ちょっと見てくる」
わたしは運転手としばらく車の中で待っていた。エバが戻ってきた。
「あった。あなた、二十万ペソちょうだい」
「こんなところで買って、どうやってボゴタに持って帰るんだ。ボゴタで買えよ」
「ここ、安い。二十万ペソ、貸して」
「貸してじゃないだろ。くれだろ」
日本にいるときから、エバは仕事先に送って行く別れ際に三千円とか五千円を「貸して」と言いながら、返したことはなかった。「くれ」と言いにくいときに、「貸して」を連発したのだ。エバの「貸して」は「くれ」と同じだった。
もう駄々っ子と同じだった。昨晩から蜜月状態が続いていたので、つい甘くなって、「分かった」と言った。しかし、二人で車を離れるわけにはいかない。車のトランクには、わたしとエバの荷物が積んである。カメラやビデオの貴重品も入っている。わたしたちがビデオを買っている間に、タクシーの運転手が荷物を持ち逃げする危険性があった。
「エバ、わたしはいっしょに行けないぞ。荷物ある」
「だいじょうぶ。わたしが運ぶ」
しかたなく、周囲から見えないように路上で財布から二十万ペソをこっそり渡した。運転手は事情を察したのか、自ら車から降りてキーをロックした。そして、「プスッ」と口で合図をし、路上にたむろしている少年たちのひとりに小銭を渡して、車を見張るように言いつけた。
「エバ、もう一日、カルタヘナにいたら。どうせ、おれもあさって、ボゴタに帰るのだから」
「ノー。明日、用事がある。帰る」
「恋人と約束があるんだろう」
「ノー。違う。お義兄さんと会う」
「一日ぐらいあとでもいいだろ」
「ダメ。出来ない」
この十日間は、片時も離れずいっしょにいたから、エバが男と連絡をとった形跡はなかった。ボゴタを離れるとき、彼女は生まれ故郷であるサンタンデール州のお姉さんのところに行くと、恋人に嘘を言って出てきた。彼女の誕生日のときも、電話はしていない。だから、一日くらいどうにでもなると思っていた。
まだ、心の底にコロンビアーノの恋人が残っていたのか。それとも、彼女の過去を知る片山氏たちとは顔を合わせたくないのが本音なのだろうか。しかし、無理強いは出来なかった。どうせ、あさってには会うのだからと、彼女をそのまま送り出すことにした。
時間はまだあったので、ホテルをチェックアウトし、途中で早めの夕食を摂ることにした。
ホテル前に付けていたタクシーを拾うと、エバがおいしいレストランに行ってくれと告げた。運転手がなにやら言った。
「リュージ、なに食べたい。魚、肉?」
「そうだな。せっかく海なのだから、魚がいいな」
運転手に連れて行かれたのは、ホテルから数分の位置にあるシーフードレストランだった。四時過ぎとあって、客は誰もいなかった。メニューを見ると、さすがに今まで行ったレストランの中で、一番値段が高かった。
昼食を摂ってからあまり時間が経っていなかったので、エバに二品だけ選ばせた。サラダと魚のから揚げである。
注文を済ませると、エバが突然言い出した。
「ねえ、隣りに電気のお店ある。わたし、見た。ビデオ欲しい。プレゼント、オーケー?」
また、得意のおねだりが始まったのだ。たしかにエバの部屋には、ステレオやテレビ、冷蔵庫、洗濯機などの電化製品が一通り揃っていたが、ビデオだけはなかった。
「ビデオは高い。ダメ」
「ノー、安い。わたしは昨日、ショッピングセンターで見た。ここ、ボゴタより安い。二万円」
「安いったって、ここは観光地だぞ。安いわけないだろ。ボゴタより何でも倍ぐらい高いって言ったじゃないか」
「そう。でも、ビデオは安い。隣りのお店、行ってみる。安かったら、プレゼント、オーケー?」
「分かった」
たしかにタクシーを降りるとき、隣りにソニーなど弱電メーカーの看板が掲げてある店があるのはわたしも見ていた。だが、間口が小さくて、電池や電球、蛍光灯の類しか置いていないような小さな店だったとので、行って確かめれば諦めると思ったのだ。
料理が運ばれてくるころにエバは戻ってきた。
まだまだ見るべき遺跡、博物館、教会の類はあったが、エバの飛行機の時間が気になったので、いったんホテルに戻ることにした。タクシーを拾おうと、ボリーバル公園の前に行ったとき、エバは目ざとく皮製品の店を見つけた。コロンビアには珍しく小奇麗で、青山にでもあるような店構えだった。
ハンドバッグやボストンバックなど、商品はすべて皮製品だ。日本人が好むブランド品ではないが、手触りなどからみても、かなりの高級品だということは分かった。コロンビア人は肉食なので、大牧場が全国各地にある。その副産物の皮を利用した製品なのだろう。値段も本皮のバッグで一万円もしない。
「ねえ、ハンドバッグ欲しい。わたしの誕生日のプレゼント」
「だめ。もういっぱい誕生日のプレゼント買った」
「皮ジャンもあるよ。安い。あなた買う」
「ノー。いらない」
皮ジャンには魅力があった。日本で買うものの五、六分の一だろう。しかし、こんなくそ暑いコロンビアで皮ジャンを着る機会はわたしにはない。荷物はできるだけ少なくしたかったし、これ以上金を使うと、日本に帰ってからクレジットカードの支払いが大変だった。わたしがさっと店から逃げたので、エバも諦めて付いて来た。
三時過ぎにホテルに戻った。あちこち歩き回って、わたしのTシャツは汗びっしょりだった。シャワーを浴びたが、この日は何度も利用しているので、バスタオルも水に漬けたようにぐっしょり濡れていた。水着と同じように、ベランダに干しておけばよかったと思った。
ベッドに横になり、一服していると、シャワーを終えたエバも横になった。エバは六時の便でいったんボゴタに帰る。予定では、わたしはエバを送ったあと、片山氏たちと合流し、カルタヘナにもう二泊するつもりだった。十日間いっしょに過ごしていたエバと、一日とはいえ離れ離れになる。
その感傷がエバにも伝わったのか、抱き寄せると、彼女も身を預けてきた。昨晩から三回やっている。彼女を抱く体力も気力も残っていなかったはずなのに、抱きしめていると、不思議と回復してきた。
タイミングを外すと萎えてしまうと思ったわたしは、エバの下着を剥ぎ取った。
「オー、元気ね。あなた、朝、牡蠣食べた。だから元気?」
エバは苦笑いしたが、拒否はしなかった。また全身汗まみれになって、彼女にぶちまけた。といっても、さすがに空砲に近かった。もうエバは、ほかの誰のものでもない、わたしだけのものだ、という実感があった。
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