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「あなたディスコ好き? わたし、大好き」とペギーが聞くので「好き」と答えた。「わたし、ときどきここ来る」と言うので「わたしもときどき」と言ってやった。いまは赤坂のスナックにいるという。
「コロンビアーナ、わたしひとり。あとアメリカ人、オーストラリア人。カラオケある。でも、デートない」
六本木なら白人系の店は多く知っている。だが赤坂の外人クラブは知らないので「行きたい」と言うと、「いま名刺もってない。アパートの電話教えるので、ここへかけて」と言いつつ、店のナプキンに電話番号を書いてよこした。
ペギーは七~八人の男女のグループだったが、別にその男の目を気にする様子もなかった。ただの男友だちなのだろうか。その後、踊る相手を次々代えながら、踊り狂っていた。本当にディスコが大好きらしい。
席に戻ると、ペギーがクリスと話をしている。こちらも顔見知りらしい。二人が話し終わったあと、クリスが「あなた、ペギー知ってる?」と聞いてきた。「うん」と答えると、「フーン」とうなずいた。
こういうところでは、あまり異性の知り合いが多いとまずい。浮気者だと思われるからだ。しかし、どうせ劇場で知り合った仲だ。底は知れている。別に誰と恋人というわけでもないしと、開き直った。
クリスに比べて、エバとジェニファーは控えめだ。とくにジェニファーは無口といってもいい。まったく踊ろうともしない。「どうして踊らないの」と聞くと、「あまり好きじゃない」と言った。
その代わり、タバコをスパスパ吸い続けていた。ウィスキーも結構飲んでいる。クリスが典型的なラティーナだとすると、ジェニファーなどはロシアかどこか北のほうの国の鬱屈した売春婦を想像させる。日本でいえば、青線などで座蒲団売春していた女のような雰囲気だ。
反対に、クリスとエバはタバコを吸わない。コロンビアーナには、こういう仕事をしていても、タバコを吸わない女は多いのだ。
エバが踊ろうというので相手をした。メレンゲだ。踊り(バイラール)は好きじゃないと言っていたのに、踊り出すとなかなか上手い。基本がしっかりしている。ジルバ風にくるくる回すのも教えてくれたが、そのタイミングがよく分からない。
クリスは、わたしがそういうバリエーションをつけては踊れないということが分かっているのか、ずっと体をくっつけて踊っているだけだった。もちろん、頬と頬がくっつくような濃密さで踊るのだが。
四時を過ぎる頃になると、今日の始末をどうつけるか気になってきた。相手は三人。とてもじゃないが、ホテルに入れる人数じゃない。仮に入れたとしてもべらぼうな割増料金を取られるだろう。
以前、ディスコに行った帰り、テレサとその友だちのケリーの三人で朝の八時ころホテルに入ったことがあった。十二時には出たのに、特別料金だと言われて二万数千円も取られてしまった。もちろん、テレサとしかしていない。
四人でホテルに入っても、三P、四Pというのならまだ納得できるが、そういうわけにもいかない。牽制しあってただ寝るだけということになるのがせきの山だ。だから、ホテルに泊まるのだけは、金の無駄遣いだから避けたかった。
クリスに「いつ帰る」と聞いてみた。すると「もう少し」と言う。彼女はますます元気だ。ほっておいたら、店が閉まる八時まで踊り続けるかもしれない。それだけは勘弁してほしい。八時までディスコをはしごさせられたテレサの二の舞になる。
いいかげんにブレーキをかけておかないとたまったもんじゃないので、「疲れた。疲れた」とオーバーに言っておいた。五時半を過ぎて、ようやくクリスが帰ろうと言い出したのでホッとした。
ところが、パーキングに置いてある車をここまで持ってきてくれという。歩くのが嫌なのと、危険地帯を歩きたくなのだろう。エレベーターを降りて、外に出てみると、もう外はすっかり明るい。またまた夜明しをしてしまった。
パーキングの駐車料金は二千四百円だった。五時間ほどだからこんなものか。ラテンブラザースの前に車を付けて、彼女たちの出てくるのを待ったが、全然出てくる様子はない。世話のやけるやつらだ。いちいち呼びにいかなくちゃならない。
エレベーターを昇って再度、ラテンブラザースの中に入り、三人を連れ出した。ここの料金は、約束どおり三人が払ったらしい。車に乗せ、「これからどうするんだ?」と聞いてみた。
正直言って、今日どうこうしようという気はない。ホテルに行っても何もできないのは分かっているから、彼女たちに、どこか友だちのアパートかなんかに行ってもらったほうがいいのだ。
しかし、案の定、クリスの答えは「ホテル!」だ。「だめ、だめ。四人なんかで入ることできない」と言うと、「大丈夫。三P、三P」なんてのんきなことを言っている。正しくは四Pというべきなんだろうけど、日本語が怪しいのだからしょうがない。それにしても、だれに三Pなんて言葉を教わったのか。
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