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「あなた、ここに寝る」と、エバはソファを指差した。
もちろん、ベッドルームには豪華なベッドがあるのだが、そこは使わせてくれないらしい。たぶん、体臭や汚れが残って、サリーにバレるのを恐れているのだ。
わたしは当座に必要なものだけをリュックサックに移し替え、トランクだけを残してエバの部屋に戻ることにした。サリーの部屋にはテレビも置いてないし、冷蔵庫にも何も入ってなかった。ここは寝るとき以外、退屈すぎて何もできない空間だった。
エバの部屋はサリーの部屋の一階下だから、エレベーターを使わず、階段を降りていこうとした。ところが階下から人の話し声がした。エバと同じ階の住人がエレベーターを待っているらしい。
「リュージ、ちょっと待って」
エバは足を止めて言った。数十秒で話し声が消えた。恐る恐る階段を降りた。エレベーターの前には誰もいなかった。
彼女のマンションは、同じフロアーに三つしか部屋がない。同時にエレベーターの前でぶつかる可能性は稀なのだが、その偶然が起こったらしい。
もう一度、エバの部屋に戻った。ホテルにキャンセルの電話をしなくてはと思ったが、彼女は「大丈夫、問題ない」といっこうに気にしてない。別に予約料も払っていないから、損をするわけではない。だが、何の連絡もなしに予約をキャンセルされたらホテルも困るだろうと、よけいな心配をしてしまうのは、わたしが日本人だからだろうか。
ダイニングルームの机の上に、一枚のチラシが置いてあった。マンションの外観がイラストで描いてあった。不動産会社のチラシらしい。
「エバ、これ、なに?」
「これ、アパート。わたし、いま、新しいアパート探してる。サリーの前のハズバンドといっしょに探してる。彼、助ける。明日も、彼と探しに行く」
「このアパートはどうするの」
「ここ、レンタルする。そのお金でわたし、大学に行く」
いくら日本で稼いだか知らないが、コロンビアで学生生活を送っていれば、貯金は確実に目減りしていく。それでもう一つアパートを買い、この部屋をレンタルに回してその家賃を生活費に充てようというのだ。金銭感覚がしっかりしているエバらしかった。
それにしても、チラシのマンションの名前は「バンコク」となっていた。日本では、わざわざ開発途上国の都市の名前など、イメージダウンになってしまうから使わないだろう。コロンビアでは、タイのバンコクという地名が我々日本人とは違うイメージがあるのかもしれない。
「エバ、電話貸して。カルタヘナの片山さんに電話するから」
「ノー、できない。わたしの電話、まだ市外電話のコントラト(契約)してない」
電話がつながったので、当然コロンビア全国に電話できるものと思っていたら、市内と市外の契約は別だというのだ。コロンビアの電話状況は、まだ日本の戦争直後の状態みたいらしい。
「日本には電話できるだろ。コレクトコールで」
いくらなんでもボゴタには、日本のKDDみたいな会社があるはずだ。そこに電話してコレクトコールを頼めば、国際電話の契約をしていなくてもだいじょうぶだと思ったのだ。
「たぶんできる。でも、コロンビアのオペレーター少し。忙しい」
「とにかく、かけてみないと分からないぞ。どこに電話したらいいんだ」
エバが真新しい電話帳をひっくり返して探し始めた。しばらくして、「ここ」と指差した。だが、試しにかけてみたが「ツー、ツー」という話し中の発信音が聞こえるだけだ。時間をおいて、何度もかけてみたがまったくつながらない。
「エバ、オペレーターって何人いるんだ」
「たぶん、二人くらい。コロンビアにはテレコンある。そこに行けばできる。明日行く。オーケー?」
五百万人の大都市にたった二人だと。それではつながるわけがない。わたしは電話するのをあきらめた。
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