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十六日の午前便を利用して、M市に飛んだ。この便では午前中の面会は無理だった。それはいいのだが、午後からの面会だと心配な面があった。一度エバに面会に来たという男の存在である。
こういうところの規則では、面会は一日二組である。一週間に一度面会に来てくれるように頼んでいるという通訳の女性が、午前中に来ているかもしれない。それに加えて、その男が最後の面会に来ている可能性も考えられた。すでに二組の面会が行われていれば、わたしが行っても面会できないかもしれなかったのだ。
だが、そんなことは行ってみなければ分からない。とりあえず刑務所に行くことにした。昼食を摂り、刑務所に着いたのは一時半だった。セーターと靴下の差し入れの手続きをしたあと、面会所に行って順番を待った。午後の部のせいか、面会者がいつもより多く、十数人が待っていた。何回も訪れたなかで一番混んでいた。しかし、わたしのようにひとりで来ているものはおらず、みんな二~三人のグループだったから、三十分くらい待たされただけで順番が来た。
面会室は一番だった。ここには面会室が三室あったが、これまで来た六回とも必ずここだった。付き添いの刑務官も同じだった。決まっているのだろうか。そういえば、以前面会室で話しかけてきた兄ちゃんが、「ここの面会担当者は二人しかいない。よそはもっと多くいるのに」と文句を言っていたのを思い出した。
エバは、わたしが面会室に入るのと一瞬遅れて入ってきた。半纏を着ていた。わたしが前回頼まれて差し入れた紺のジーンズ柄の半纏だ。
「元気?」
「元気。あなた、元気?」
「元気だ。しもやけはまだある?」
「まだ少しある」
そう言いながら、手を面会室を隔てているガラスに押し付けた。なるほど指先がまだ紫色に変色したままだった。
「クスリもらっているんだろ。どうして治らない」
「クスリ飲んだ。でも、寒いから治らない」
「昨日、今日は暖かいよ」
「そうね。たぶん、もう少しね」
前日読んだ夕刊紙のコラムに、家田荘子が「東京拘置所では湯たんぽを使っていたが、最近は使い捨てカイロになった」と書いていた。彼女の病状をみれば、クスリではなく、湯たんぽや使い捨てカイロのほうが効き目があるはずだ。ここM市では、湯たんぽもカイロも禁止なのだろうか。
もっとも湯たんぽにしてもお湯代は取られるというし、使い捨てカイロにしても購入費がかかる。それをケチって使わないのか、それともそういうものが使えるのを知らないのか、彼女に聞こうと思っていたのだが、ころっと忘れてしまっていた。
「エバ。明日、裁判だね」
「そう」
「たぶん、もうすぐ帰れる」
「分からない。裁判、どうなる、まだ分からないでしょ」
「でも、弁護士に聞いたら、たぶん明日イミグレーションにチェンジだって」
「ホント?」
「たぶんね。エバ、お金、自分で送るって? 手紙見た」
「そう。でも、分からない。どうする」
自分の裁判の成り行きがはっきりしないから、送金のことまで頭が働かないようだった。
「その半纏、俺のプレゼントだな」
「そう、これ暖かい。ありがとう」
半纏なんかより、ダウンウエアのほうが温かいだろうが、室内では規則で着れないのかもしれない。
「クラウディアはどうしてる?」
やはり一番の親友だったクラウディアのことが心配だったようだ。
「彼女、まだポリスだと思う。友だちが言ってた。彼女は日本が長いから、ペナルティも長い」
「そう?」
「たぶん、エバといっしょの飛行機だよ」
「ホント? うれしいね」
わたしの冗談半分の話にエバの顔はほころんだ。しかし、可能性がないわけではない。クラウディアはエバとほとんど同時期に捕まった。彼女の裁判の日程は知らないが、エバとさほど変わらないだろう。コロンビアに行く便は週に何便と限られているから、成田から帰るということであれば、いっしょになる可能性は、ごくわずかだがある。
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