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「ない」
「だから言っただろ。欲しいのなら、ボゴタで買えばいいじゃないか。なんでこんなところで買うんだ。重たいぞ。空港ではどうするんだ。今日はひとりでボゴタに帰るんだぞ」
「だいじょうぶ。今日と明日、わたし、ひとり。寝る、寂しい。ビデオがあったら、レンタルビデオ借りて見るから、わたし、寂しくない。たぶん、近くにもうひとつお店がある」
「いいかげんにしろ。早く食べないと、時間に遅れて、飛行機に乗れないぞ」
わたしの声の大きさにシュンとなったエバは、諦めておとなしく食べ始めた。魚の種類は分からなかったが、白身魚をパリっと揚げたものだった。熱帯の魚らしく、身に締まりはなかったが、味は淡白で、まあまあの味だ。
五時を過ぎたので、あわてて清算してタクシーを拾った。運転手は三十くらいのやせた背の高い男だった。エバを送って、わたしは片山氏たちがいるヒルトンホテルの近くに戻らなくてはならない。エバに交渉してもらうと、往復八千ペソで話がまとまった。
だが、車がセントロ地区の商店街を通りかかったときである。エバが突然、「停めて」と言った。
「なんだ」
「あそこ、マーケットある。見てくる」
一本の路地があり、たしかにアメ横のように個人商店のような小さな店が両脇に並んでいた。電気店もありそうだった。
「ええっ。もう時間ないぞ」
「ちょっと見てくる」
わたしは運転手としばらく車の中で待っていた。エバが戻ってきた。
「あった。あなた、二十万ペソちょうだい」
「こんなところで買って、どうやってボゴタに持って帰るんだ。ボゴタで買えよ」
「ここ、安い。二十万ペソ、貸して」
「貸してじゃないだろ。くれだろ」
日本にいるときから、エバは仕事先に送って行く別れ際に三千円とか五千円を「貸して」と言いながら、返したことはなかった。「くれ」と言いにくいときに、「貸して」を連発したのだ。エバの「貸して」は「くれ」と同じだった。
もう駄々っ子と同じだった。昨晩から蜜月状態が続いていたので、つい甘くなって、「分かった」と言った。しかし、二人で車を離れるわけにはいかない。車のトランクには、わたしとエバの荷物が積んである。カメラやビデオの貴重品も入っている。わたしたちがビデオを買っている間に、タクシーの運転手が荷物を持ち逃げする危険性があった。
「エバ、わたしはいっしょに行けないぞ。荷物ある」
「だいじょうぶ。わたしが運ぶ」
しかたなく、周囲から見えないように路上で財布から二十万ペソをこっそり渡した。運転手は事情を察したのか、自ら車から降りてキーをロックした。そして、「プスッ」と口で合図をし、路上にたむろしている少年たちのひとりに小銭を渡して、車を見張るように言いつけた。
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